PiPi's World 投稿小説

いざ立て戦人よ
官能リレー小説 - 戦争

の最初へ
 1
 3
の最後へ

いざ立て戦人よ 3

「何にせよ頼もしい限りだな!おぉ〜い!!頑張れよぉ〜!」
「頼むぞぉ〜!」
「敵をやっつけてぇ〜!」
爆撃機は50機以上は居ると思われる大編隊で、空一面を覆い尽くしている。
広場に集まった人々は空に向かって手を振った…

が…

その爆撃機は、何か黒い物をバラバラとバラまき始めた…。

ヒュウウゥゥゥゥ……ズドドドドドドオオオォォォンッ!!!!

市庁舎と広場を挟んで反対側にあった建物群にその無数の黒い何か(いや皆きっと頭のどこかでは解っていたのだろう)が降り注いだ…かと思ったら建物は全て盛大に爆発して吹っ飛んた。
「「「……っ!!!?」」」
皆は一瞬この状況が全く理解出来なかった。
エルンもそうだった。
何が起きているのかも解らず、ただバカのようにポカーンと空を見上げていた。
そこに老紳士が叫んだ。
「空襲じああぁぁぁぁっ!!!!」
「ひ…ひいぃぃ〜っ!!?」
「うわあぁぁっ!!!」
「キャアァァーッ!!!」
「に…逃げろおぉぉっ!!!」
「逃げるって一体どこに…っ!!?」
その声で我に返った人々は慌てふためきながら逃げ惑い始めた。
エルンも自分のオート三輪に飛び乗ってエンジンを始動させようとした。
どこでも良い。
とにかく逃げようと思った。
ところが…
「オラァ!!どきやがれぇ!!」
「ぐはあぁ…っ!?」
とつぜん男が飛びかかって来てエルンを殴り付け、運転席から引きずり下ろした。
「…ちょっと借りるぜぇ!」
「何を言ってるんだ…返せぇ!!」
負けじとエルンも男に掴みかかる。
いや彼だけではない。
次々と見知らぬ人々が後から後からオート三輪に殺到する。
「これは俺のだぁ!!」
「バカヤロウ!!俺が先に目を付けてたんだ!!」
「私も乗せてよぉ!!」
「ふ…ふざけるな!!僕のオート三輪だぞ!!」
「醜い…実に醜いのう…」
そんな事をしている間に、ついに目の前の市庁舎に爆弾が命中した。

ズドオオォォォンッ!!!!

100年前に建てられたという古風かつ優美な外観で知られたエルフィーリアス市庁舎は瞬く間に崩壊し、辺りには土煙が舞い上がった。
「あばよぉ〜!!」
 ブオォー――ン…
エルンからオート三輪を奪取した男はドサクサに紛れて走り去る。
「…ゴホッ!ゴホッ!…チ…チクショウ!待てぇ!…ゲホッ!ゲホッ!…」
エルンは咳き込むしか無かった。
だが、直後…
 ガッシャアァァァンッ!!!!
「ギャアァァァッ!!!?」
…煙の向こうから聞こえて来たのは衝突音と男の断末魔…。
「…ゴホッ…バカめ…周りも良く見通せない所で無闇に走るからだ…ゴホッ…ゴホッ…」
オート三輪という手段が無くなったエルンは仕方無く走って逃げる事にした。
とりあえず一刻も早く市街地から抜け出さなくてはならない。
エルンは走った…。

…その後、どこをどう逃げたのか、エルンは道に迷ってしまった。
かつては見知った街も今や瓦礫と火の海…しかも黒煙に覆われ、まともに周りも見えない。
ここが何という通りなのか、どっちへ行けば市街地から抜けられるのかすら判らない。
他の人々も同じだ。
ただただ爆弾の雨と炎から逃げ惑うばかり…。
「…あ痛っ!!?」
エルンは何かにつまづいて転んだ。
足元を見てみると何やら商店の看板らしい。
見覚えがあった。
「これって…!!」
エルンはここがエミリー達の商店街である事に気付いた。
「エミリー、まさか…いや、もう逃げてるよな…?」
辺りを見回してみると、所々に無残な姿となった人々が転がっている。
「…エミリー!!居るかぁ!?エミリー!!」
急に不安になったエルンはエミリーの名を叫びながら彼女を探した。
そして彼はエミリーの家であるパン屋があった場所へと辿り着いた。
「嘘…だろ…」
パン屋は跡形も無かった。
そこには小型の飛行機の残骸が燃えていた。
燃え残った翼にはエルフィール公国空軍の標識…おそらく迎撃に出て撃墜された戦闘機だろう。
「そんな…味方の飛行機が落ちて来るなんて…そんな…」
エルンは崩れ落ちるようにガックリとその場に両膝を付いた。
ふと空を見上げると、立ち込める黒煙の合間から敵機が悠々と舞っているのが見えた…その姿はまるで自分達を嘲笑っているかのようだ。
無理も無い…こちらは対空砲で応戦している風も無く、戦闘機が飛び上がってもこのザマ…。
「チクショオオォォォォッ!!!!」
エルンは叫んだ。
目からは涙が溢れて来た。
彼は敵機に向かって叫んだ。
「降りて来いよぉ!!!自分達だけ安全な場所にいて僕達を殺そうって言うのかぁ!!!降りて来い!!!来いよぉ!!!」
エルンは声を限りに叫んだ。
聞こえる訳が無い…無駄だと解っていても、叫ばずにはいられなかった。
「ちくしょう…ちくしょう…僕達は打つ手無しなのか…ヤツラに一方的にやられるだけなのかよ…」
やがて叫び疲れたエルンは、さめざめと泣き始めた。
目の前で奪われていく命に対して何も出来ない…。
大切な人を守る事も出来ない…。
そんな己の無力さが、情けなくて、悔しくて、堪らなかった…。

SNSでこの小説を紹介

戦争の他のリレー小説

こちらから小説を探す