PiPi's World 投稿小説

いざ立て戦人よ
官能リレー小説 - 戦争

の最初へ
 15
 17
の最後へ

いざ立て戦人よ 17



ヴァルヴァスヴァウの空軍基地を発った一万機にも及ぶ爆撃機の大編隊は一路エルフィーリアスを目指した。
だが高度1500mという超低空飛行では途中、数々の危険を伴う。
その最大の難所がギルモア山脈…オルガニアとエルフィールの国境となっている標高4000m級の大山脈である。
燃料節約のため山と山の間を縫うように飛ばねばならず、しかも運悪くこの日は一帯が厚い雲に覆われ視界はゼロ…少しでも油断して操縦をミスれば山肌に激突するという運命が彼らを待っていた…。

『機長おぉっ!!!!前方に山がぁ…っ!!!!』
『回避しろおぉっ!!!!』
『駄目ですっ!!!!回避不能…うああぁぁぁっ!!!?』

 ズドオォォーンッ!!!!

『しまっ…助け…っ!!!!』

 ズドオォォーンッ!!!!

『うああぁぁぁっ!!!?お母さあぁぁ…っ!!!!』

 ズドオォォーンッ!!!!

通信機からは悲痛な断末魔の悲鳴がひっきりなしに響いている。
それが途切れると視界を覆い尽くす雲の中の何処かがパッと光る…味方機が山肌に激突し爆発炎上した光だ。
「将軍!既に我々は兵力の三割を失いました!」
「くっそおぉっ!!!!」
メイルは苛立っていた。
予想以上の損失だ。
ちなみに彼の機は編隊の中央よりやや後方…もっとも危険の少ない位置だ。
とつぜん操縦士が叫んだ。
「もう嫌だ!!将軍!こんな作戦今すぐ止めて帰りましょう!このままではエルフィーリアスに辿り着く前に全滅ですよ!!」
「な…何だとぉ!!?ふざけるな!!敗北主義者は銃殺だぞ!!」
そこへ通信士が言った。
「将軍!ギア大佐機より通信が入っております!」
「よし、繋げ!」
『…将軍!ここは一旦ヴァルヴァスヴァウに引き返しましょう!』
「なにいぃっ!!!?ギア!!貴様まで臆病風に吹かれたか!!!」
『そうではありません!!!冷静に状況を分析して最善と判断した策を申し上げているまでです!!!』
「冗談じゃない!!!三割だぞ!!?ただ目的地へ行くだけで!!!皇帝陛下からお預かりした大切な機と兵を!!!まだ何もしていないのに!!!三割も失ってしまった!!!この上おめおめと引き返せというのか!!?」
顔を真っ赤にして唾を飛ばしながら通信機に向かって怒鳴り散らすメイル。
そこにはもはや“この作戦で戦争を終わらせてみせる”と語った時の余裕は無く、想定外の大損害を出してしまった自分の落ち度を返上する事にただただ必死であった。
そのために部下が何人死のうが、もはや構ってなどいられない。
ギアは言う。
『将軍!!もうあんたは冷静に物を見る事が出来なくなってるんだ!!現実を見ろ!!このままじゃあ何機エルフィーリアスまで辿り着ける事か!!』
「黙れぇ!!!黙れ黙れ黙れえぇー!!!この山地さえ抜ければ後は平地!!!エルフィーリアスまであと少しなのだ!!!」
『エルフィーリアスにまた“機械の巨人”が現れたらどうするんだ!?』
機械の巨人…それはオルガニア側での戦人の呼称であった。
「ハッ!!あのロクに歩く事も出来なかったガラクタか!!あんな物、百体現れても脅威ではないわ!!」
『確かに多くはそうだった…だが中にたった一体だけ、光線兵器のような物を使用して五機の戦闘機と二十機の爆撃機を一瞬で葬ったヤツがいた事も覚えているだろう!!』
「やかましい!!!もう貴様の声など聞きたくもない!!誰に何と言われようと、俺は必ずこの作戦をやり遂げてみせる!!必ずだ!!!」
そう一方的にまくし立てるとメイルは通信を切った。

「イカれてやがる…」
ギアは通信機の受話器片手につぶやく。
思えば元から強引で頑固で、頭のネジが何本か飛んでいるような男だったが、それでも昔はどこか人懐っこく愛嬌があって憎めない所があった…。
だが最近では「俺は一体いつになったら元帥になれるんだ!?」が口癖で、士官学校の同期に先を越されたと言っては悔しがり…つまりは功を焦っていたのだ。
ギアは思う。
(冗談じゃない!あいつの出世のために死ぬなんてまっぴらだ!こうなったら…)
その時、操縦士が叫んだ。
「大佐ぁっ!!雲が晴れていきます!」
「何っ!?我々の現在地は!?」
レーダー担当の兵士が驚喜して答える。
「お喜びください大佐!!我々はギルモア山地を抜けました!!エルフィーリアスの街はもう目前です!!」
「何と!?では将軍の作戦通り爆撃任務を行えるという事か!」
ギアの胸中は一転、心が踊った。
(俺が間違っていた!やはりメイル将軍は本物だ!あの人に付いて行けば何もかも上手くいく!)
現金な話だが、今の彼らは正に敵の胸元に刃を突き付けたような状態だ。
あとは為すべき事は決まっている…心臓を貫きトドメを刺すべく最後の一突きを加えるのみ。
これで戦争は終わり、彼らは英雄となる…

…はずだった。

「…っ!!!?」
次の瞬間、ギアは目を見開いた。
眼下にエルフィーリアスの街並みが迫っている。
その手前に、あの“機械の巨人”が十数台ほどズラリと並んでいたのだ。
それが全て弾倉付きのライフル銃のような物(もちろん巨人に相応しく銃も巨大な物)を構えている。
その銃口は空…つまり自分達へ向けられている事を悟った時、ギアは絶望感でいっぱいになった。

SNSでこの小説を紹介

戦争の他のリレー小説

こちらから小説を探す