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蒼海の戦乙女たち
官能リレー小説 - 戦争

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蒼海の戦乙女たち 5


その後、航海は順調に進み、いよいよ難所であるホープ峰へと近づいていく……。
エスメラルダにとっては二人の“姉”を失った因縁の海域だ。
蒸気船ならば自らの生み出す推進力で、ある程度の潮流なら無視して進む事が出来るが、石炭が尽きてしまい沈んだ船も既に出ている。
末妹であるエスメラルダは海と空を見つめていた……。

ふと彼女に声を掛ける者がいた。
「君にとっては因縁の海域か……?」
ヘインズマンであった。
「あなたも……?」
「ああ……」
肯くヘインズマン。
彼はエスメラルダが何者なのか解っていた。
「……ワシが今のアルフレッドと同じ歳の時、君のお姉さんと出会ったんだ。後になって彼女がこの海で沈んだと聞いた時は悲しかった……」
「そう……」
「……だが君は生き残れる」
ヘインズマンは断言し、エスメラルダも黙って肯いた。

ルェルランドの沖に到達したエスメラルダ号は軍港とローランド海軍の軍艦の祝砲を受けた。
「何時も煩いわ…」
「はは……」
歓迎を意味する祝砲も彼女にとっては耳を塞ぎたい雑音らしい。
アルフレッドは笑うしか無かった。
エスメラルダ号は帆走練習艦という事で岸壁に接岸できるようになっていた。

上陸したアルフレッドはヘインズマンに告げる。
「海竜の息吹(激しい潮流)は収まっていないようです」
「そうか、風龍のクシャミ(突風)は今の季節は少ないというのは知っていたが…」
ここが海の難所と呼ばれる所以なのだろう。
こうして考えてみると穏やかな大洋を真っ直ぐに突っ切って行けば極東に到達できるリベリア合州国がいかに優位かが解る。
いずれにせよ暫く滞在する必要がありそうだ。

「ところでアルフレッド、君には心に決めた相手とかは居るのかね?」
「はあ!?いきなり何を言い出すんですか?」
もちろんだが、そんな女性は居なかった。
もともと異性に対して奥手だったのに加え、海軍士官学校に入るために恋愛する暇も無く…。
士官学校に入ってからも同期達のように休日に娼館へ足を運ぶ事も無く…。
「……よし!筆下ろしに異国の女と言うのもオツなもんじゃ……行くぞ!」
「わわわ…!?」
ヘインズマンはアルフレッドを半ば強引に色街へと連れて行ったのである。

この地の半分は元ウェルランド領だった。
そのため祖国が消滅した後、多くの貴族とその領民らが移住した。
ローランド側もこれ以上の戦乱は避けたいのか、ウェルランド貴族らに迫害を加える事は無かった。
そして使用人として接していた現地のダフリカ人との混血児が徐々に増えており、ルェルランドの色街は船乗り相手に盛況であった。
ダフリカ人の褐色の肌とウェルランド人の金色の髪を持つ混血の娼婦達は異国情緒に溢れ、船乗り達の間で人気があった。
しかしそれは同時に奴隷としての価値がある事を意味している。
ローランド王国はじめ西洋諸国の繁栄はダフリカ人奴隷を抜きには語れない。
奴隷……ある歴史家は“奴隷の存在こそが近代化推進のための筋肉となった”と語る。
その筋肉を全て奪われたダフリカ大陸は、文字通り“骨と皮だけ”にされた……。

……それはさておき今は二人の動向を追おう。
「教授、ここは……?」
「ルェルランド一の高級娼館じゃ」
アルフレッドが戸惑う中、ヘインズマンは平然と入っていく。
「で、殿下……!?」
「馬鹿者!今はただのヘインズマンじゃ」
同年代だろうか……支配人はヘインズマンの正体を知っているらしい。
「こいつの筆下ろし相手を見つくろってやってくれ」
「は、はい!かしこまりました」
アルフレッドはいまだ戸惑いを隠せない表情を浮かべていた。
「きょ…教授……僕は…」
「いいから男になって来い!ここの金はワシが持つ」
バンッと勢い良くアルフレッドの肩を叩くヘインズマン。
こうなるとアルフレッドも覚悟を決めるしか無かった…。


深夜、アルフレッドは一人で船に帰って来た。
当直の水兵が意外そうな顔をする。
「あ!准尉殿、お帰りですか!?今夜はてっきり陸の方にお泊まりかと…」
「…あ、うん…」
彼は何故か口数が少なく元気も無かった。
自室に入ると着替えもせずに上着だけ脱いでベッドに潜り込んで布団を被った。
「お帰りなさい」
そこへエスメラルダが現れた。
「久し振りの陸はどうだった?」
「……普通…」
「そ…そう…」
何かあったのだろうか。
エスメラルダは首を傾げる。
その理由は後で戻って来たヘインズマンが教えてくれた。

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