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蒼海の戦乙女たち
官能リレー小説 - 戦争

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蒼海の戦乙女たち 1

ローランド王国は四方を海に囲まれ、古くから海運が盛んな島国である。

「うげえぇ〜〜!」
ここはローランド王国王都アルティアの沖合約20キロ地点、王立海軍練習艦エスメラルダ号の甲板。
先程から柵に寄りかかって盛大に海にゲロを撒く一人の青年の姿があった。
彼の名はアルフレッド・ノートン。
海軍士官候補生である。
「はぁ…はぁ…だ…だめだぁ…やっぱり僕は海軍になんか向いてない…うっぷ…」
実は彼、望んで海軍軍人の道に進んだ訳では無かった。
彼の祖父は英雄として名高い海軍軍人だった。
その子である父も現役の海軍軍人、伯父も海軍軍人、従兄も海軍軍人。
つまりノートン家に生まれた時点で海軍軍人になる運命が決まっていたのである。
彼自身はと言うと、温厚で心の優しい性格だった。
小さい頃は外で元気に遊び回るよりも、家の中で本を読んでいる方が好きなインドア派だった。
“だった”というか今でもそうだ。
およそ軍人には向いていないと本人も自覚している。
あまり社交的な性格でもないので、学者か芸術家にでもなりたいと思っていたが、家庭の事情がそれを許さなかったのである。
更にアルフレッドには海軍軍人として、というか船乗りとして致命的な欠点があった。
船酔いする体質だったのだ。
これは海軍士官学校に入ってから判明した事実だった。
「うぅ…もう胃がカラッポだぁ…」
柵にもたれかかったまま、しゃがみ込んで一人呟くアルフレッド。
今は深夜で、当直以外は全員寝ている。
もしこんな情けない姿を教官に見られたら、ぶっ飛ばされる所だろう。
「はぁ…決めた…この航海が終わったら士官学校を辞めよ…うっ」
再び襲い来る吐き気…だがもう出す物が無い。
「うぅ…い…胃まで出させるつもりか…おい、頼むからせめてもうちょっと穏やかに走ってくれないか…船よ」
アルフレッドは夜空に向かってそびえ立つ帆柱を見上げて呟いた。
エスメラルダ号は帆船なのだ。
かつては最新鋭の戦艦としてローランド連合艦隊の旗艦も務めた船で、これにアルフレッドの祖父が提督として乗り込み、圧倒的優勢とされていた敵国の艦隊を破ったのである。
だが、世は既に蒸気鉄甲艦の時代…現在は練習艦として細々と生存を許されていた。

「クスクス…」
「……?」
その時、アルフレッドは女性の笑い声のようなものを聞いたような気がした。
だがそんな事は有り得ない。
これは海軍の練習艦、女性など乗っているはずが無いのだ。
「幻聴とは…いよいよ参ってきたみたいだな…」
そう言いながらアルフレッドは何気なく声のした方を振り返った。
「……っ!?」
次の瞬間、彼は言葉を失った。
彼の後方、一段高くなったデッキの上に一人の若い娘が腰掛けていたのだ。
年の頃17〜8の美しい娘だった。
彼女は真っ白なワンピースのスカートと金色の長い髪を海風になびかせながらアルフレッドを見下ろして微笑んでいた。
「…こりゃまた絵に描いたように理想的な女性だ…。早く消えてくれ。幻覚とはいえ、こんな素敵な女性にこんな情けない姿を見られてると思うと凹む…」
すると彼女は驚いたように目を丸くして言った。
「あなた、私が見えるの…!?」
「うん」
平然と頷くアルフレッドに、逆に娘の方が驚愕と興奮の面持ちで喋り始めた。
「本当に!?わぁ!凄いわ!私もう30年も就役してるけど、私が見えたのはあなたで二人目よ!?」
「ふむ…」
アルフレッドは船酔いでクラクラする頭で考えた。
この娘は自分の想像力が生み出した幻覚だと思っていたが、どうも違うのかも…。
なら何だ?
何か超現実的な存在である事は間違いない。
…幽霊?
「…この辺で沈んだ船なんてあったかなぁ?」

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