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蒼海の戦乙女たち
官能リレー小説 - 戦争

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蒼海の戦乙女たち 4

ルェルランドはホープ岬の近くにあり、潮の流れが弱まると一斉に待機していた船が動き出す。
岬を回るとすぐにレクットと呼ばれる植民地がある。
そこを経てエジア最大の植民地“ライディア”を目指す。
そして海洋国家リュウキュウ王国の島々を伝って、ようやくフヨウへと辿り着くのだ…。

ローランドの人々にとってフヨウ国は極東の“神秘の国”であった。
“神秘”とは耳障りの良い言葉だが、嫌な言い方をすれば“文明の劣った前近代的なエジアの一国家”というスタンスである。
何せ長きに渡って鎖国していたため、フヨウ国に関する正確な情報は殆ど無いに等しい。
食人の風習すらあると誤解している者も珍しくない。
貧乏くじと言われるのも仕方の無い事だ。

「エスメラルダ号の最後のご奉公かぁ…」
「リベリアは最新鋭の蒸気装甲艦なのに…大変だな。ヘインズマン教授のお守だろ?」
同期達がアルフレッドに同情するのも無理はない。
「でも成功すれば一気に出世だぜ」
一人が言う。
その通りだがリスクもある。
二度と戻って来られない確率も決して低くないのだ。

だがアルフレッド本人はこの航海が実に楽しみだった。
(フヨウ国…いつか行ってみたいと思っていた憧れの地に実際に行ける日が来るなんて、思ってもいなかったよ)
彼は沸き立つ高揚感に胸を踊らせ、希望を抱いて旅立った…

…が、出航直後に激しく後悔する事になる。
「うげえぇぇ〜〜っ!!」
外洋に出た途端、さっそく彼の船酔い体質が本領を発揮し始めたのだ。
「あの士官見習い、大丈夫なのか…?」
「フヨウまで持つかなぁ…」
手すりにすがりついて昼食のカレーライスをリバースするアルフレッドを見て水兵達が小声で話し合っている。
「お…おい、そこの君達…」
「はっ!」
「も…申し訳ありません!准尉殿!」
水兵達は慌てて敬礼する。アルフレッドは今にも死にそうな弱々しい声で尋ねた。
「フヨウまで何週間くらいかかるの…?」
「はあ、ダフリカ廻り航路を行きますから、約10ヶ月程かと…」
「じゅ…10…ヶ月…」
「あ!准尉殿!?どうなさいました!?准尉殿ぉ!」
アルフレッドは甲板に倒れ込み、彼の意識は闇へと墜ちていった…。

「ん・・・・・・」
彼が目を覚ますと、そこはベッドの上。
身を起こして周囲を見ると、薬棚などがある。
「おお、目覚めたか。」
アルフレッドを迎えた声は、育ちの良さを感じさせる穏やかな男性の声。
「スペランカー先生・・・」
アルフレッドに答えたのはこの艦の艦医、スペランカー軍医少佐だった。
代々軍人を出してきた名門の生まれだが、「人殺しは嫌いだ」という理由で一般の士官ではなく軍医になった人物だ。
「船酔いが昂じて倒れるとは・・・・だが、船酔いは多くの場合鍛錬次第で克服できる。おそらく君もな。」
スペランカー軍医少佐はあくまで穏やかに語る。
「本当ですか…?」
「もちろんさ。君のお祖父様、ノートン提督だって…おっと!これは第一級の軍事機密だったよ」
そう言うとスペランカーは舌を出してちょっとおどけてみせた。アルフレッドも少し気が楽になる。酔い止め薬が効いているらしい。どうやら意識朦朧としている間に飲まされたようだ。アルフレッドはベッドから身体を起こして言った。
「どうも、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした…」
「気にするな、これが私の仕事だからね。もう大丈夫かい?」
「はい、自分の船室に戻って休みます」
士官には専用の個室が与えられているのだ。士官候補生のアルフレッドも同じである。

自室(と言ってもベッドと机と椅子ぐらいしか無い簡素な部屋)に戻ったアルフレッドは上着を脱ぎ捨ててベッドに倒れ込んだ。
「ハァ…情け無いよなぁ…しかし初っ端からこんな調子で無事にフヨウまで辿り着けるんだろうか…?」
顔を枕に押し当ててボヤいていると、すぐ傍で声が聞した。
「そうねぇ…私も出来るだけ早くフヨウに着けるように頑張ってみるけど、途中に難所も多いし…」
「うわあぁぁっ!!!?」
アルフレッドは驚いて飛び上がった。
「…そんなに驚く事無いでしょう。幽霊でも見たみたいに…」
そこに居たのは、あの練習航海の晩に出会った船の精霊…エスメラルダだった。ベッドに腰掛け、心外そうな表情でアルフレッドを見下ろしている。
「い…いや、ごめん。でも部屋の中にいきなり出るなんて、ちょっと心臓に悪いよ。出来ればちゃんとノックして入り口から入って来てもらえたら有り難いんだけど…」
「私の“体”の中でどうしようと私の勝手でしょ」
「そりゃそうですね…」

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