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蒼海の戦乙女たち
官能リレー小説 - 戦争

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蒼海の戦乙女たち 3

神話の時代から続くと言われている由緒ある皇室が治める国だが、実際の政治は“サムライ”と呼ばれる世襲の武官達が行っている。
君主の権限が臣下に奪われているという事か?…と思われがちだが、それが常態化して何千年も続いているという…他国に類を見ない特殊な政体である。
サムライ達による行政府は“バクフ(幕府)”と呼ばれ、その語源は戦場で本営に張ったテント(幕布)の意味だとか…。
そのバクフの長は“ショーグン”と言い、意味は将軍である。
ちなみに現在の政権は今から約三百年前、長く続いた戦乱の末に“オダ(織田)”という武将によって打ち立てられたフヨウ国史上三つ目のバクフである。
初期のオダ政権は(初代ショーグンが大変な西洋好きだった事もあり)ローランド王国の属する西洋世界とも積極的に貿易を行っていたが、宗教対立などが原因となり、三代ショーグンの時代に貿易を極端に制限して事実上“鎖国”してしまった。
以降、二五○年近くに渡って国交の無い未知の国である…。

「そのフヨウ国に行けと…?」
アルフレッドは尋ねる。
校長は頷いて言った。
「うむ、実はリベリアがフヨウに開国を求めて艦隊を派遣したそうだ…」

リベリア合州国…新大陸“リベリア”の地に建国されて、まだ百年も過ぎない若い国家である。
もともとローランドの植民地だったが、移民達が自由を求めて立ち上がり独立を勝ち取った…。

校長は続ける。
「…我が国もうかうかしてはおられん。…という訳で練習艦エスメラルダ号を海軍籍に復帰させて、使節団を乗せて派遣する事になった。君にはその使節団に加わってもらいたいのだ」
「なるほど…しかし、なぜ僕なんですか?」
「実は“ある人物”の指名でな…」
「…………誰ですか?」
「王立学士院名誉教授ラレル・ヘインズマン氏…君も良く知っているはずだ」
「あ…もちろんです!教授が僕を…!?」

ヘインズマンはアルフレッドの祖父ホレーショの友人であり、アルフレッドも幼い頃から面識があった。
専攻は文化人類学…特に東洋の文化について研究していた。
アルフレッドは少年時代〜士官学校入学前まで、長期休暇の度に教授の元で助手の真似事のような事をさせてもらっていた。
その中でも彼が特に興味をそそられたのが極東の未知の島国…フヨウ国の文化・風習に関する研究だった。

一方、ヘインズマン教授の方もアルフレッドを必要としていた。
彼は大変に気が難しく、オマケに自身も大の人間嫌いで、助手のなり手がいなかった。
そんな中、アルフレッドだけは(子供の頃から知っている事もあって)彼にとって心を許せる数少ない人間の一人だった。

実は彼の素性は、かつてローランド王国に併合された隣国ヴェルランド王国の王族であった。
事の発端はヴェルランド軍が起こした軍事クーデターだった。
だがクーデターは失敗。
その混乱に乗じてローランドが軍事介入して来て…併合。
一つの国が滅亡した。
一時は自分も祖国に殉じ、自ら命を絶つ事を本気で考えていたヘインズマンであったが、アルフレッドの祖父らの協力でローランド王立学士院の教授としての地位を得た。
その後、数十年に渡って教鞭を振るい、各国から来た学生らを相手に厳しい講義で知られ、研究者としてもそれなりの評価を得るに至った…。

彼にはかつて結婚を約束していた女性がいた。
しかし彼女はクーデター時に自国の軍によって殺された。
事件後、何度か縁談が来たが彼は独身を選んだ。
彼は己の出自と旧ヴェルランド軍を憎み続け、それを忘れる為に学問に打ち込んだ。
今やローランド王国の一地方となったヴェルランドには、併合以降、一度も足を踏み入れていない…。

翌日、アルフレッドはヘインズマン教授の屋敷を訪ねた。
「アルフレッドか、良く来た」
「お久しぶりです!教授」
質素な屋敷にて、アルフレッドは偏屈顔の教授に敬礼する。
「教授、今回の派遣で使用されるのは旧式の帆船です」
「結構じゃないか…蒸気船など石炭と水が無ければ水に浮かぶカンオケに過ぎん。乗るのは確かエスメラルダ号だったな?」
「はい」
「レストラルダ号の末妹か…」
ヘインズマンはどこか懐かしげな表情を浮かべて言った。
「…ワシはあの時、ローランドの王都に向かう“彼女”の船上に居た…臣下や国民がローランドを選んだ事に絶望してな…酒を呑んで海に身を投げようとしたんじゃ…ところが目の前に若い女が浮いていてな…説教されたよ…彼女は『自分はレストラルダ号の精霊だ』と名乗った…綺麗な女だった…」
「…教授!それは…!?」
アルフレッドは驚いた。
まさかヘインズマンも“彼女たち”が見える体質だったとは…。
ヘインズマンは続ける。
「…それで気付いた時には彼女と二人でベットの上じゃ…いまじゃあ酒で幻視を見たんだろうと思っているが…」
「そ…そんな事があったんですかぁ…(エスメラルダ…君のお姉さんは世話を焼き過ぎだよ…)」

 後日、士官学校にて任官式が行われ、アルフレッドは准尉としてエスメラルダ号に配属された。
同期の生徒達は驚いた。
「フヨウ国に行くのか!」
「ああ、軍人としてというより、実際はヘインズマン教授の助手としてだけどね」
「貧乏くじだなぁ〜」
「同情するぜ…」

フヨウ国への航海は、まずは南方の大陸ダフリカの沿岸にあるローランドの植民地、ルェルランドを目指す。
ダフリカ大陸最南端のホープ岬沖は世界でも有数の難所で“海竜の息吹”と呼ばれる激しい潮流と“風竜のクシャミ”と呼ばれる突風が吹き、世界中の船乗り達から恐れられていた。
エスメラルダ号の“姉達”の二隻も海の藻屑となっている。
(ダフリカとエジアの境目に人口の運河を建造をしようという話も出ているらしいが、アルフレッドは国家財政が破綻しても無理だと思っている。)

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