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蒼海の戦乙女たち
官能リレー小説 - 戦争

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蒼海の戦乙女たち 2

「ウフフ…私の事お化けか何かだと思ってるの?」
「ああ、僕の中では君は@幽霊、A海の妖精、B密航者のどれかだよ。さあ、好きなのを選んでくれ」
「全部ハズレよ。強いて言うならAが近いわね」
「やっぱりその類のものか!この船に取り憑いてどうしようってんだ!?艦底に穴を開けて沈めるのか!?それとも美しい歌声で乗組員を魅了して、一人残らず海中に引きずり込んだりして…」
「安心して。妖精って言っても船や船員を害するような事は絶対にしないわ。妖精は妖精でも私は船の精よ」
「…どういう事?」
「つまりね、私がこの船…エスメラルダ号なの。船はね、人間と同じように一隻一隻みんな人格を持ってるのよ。それが具象化したのが私達って訳。普通人間には私達の姿は見えないんだけど、たまにあなたみたいに見えちゃう人もいるのよねぇ…たぶん何らかの波長が合うんでしょうね」
 そう言って、にっこりと笑う自称妖精。彼女の後ろには月があった。青い光は娘の金髪を輝かせ、ワンピースを青く染めた。
 アルフレッドは船酔いも忘れ、それに見入った。
「おい、ここに居たのかよ。見張りの時間だよ!」
 アルフレッドの後ろから同輩が声をかけた。
アルフレッドが振り返ると同期の生徒が平然とした顔で立っていた。
アルフレッドは思わず娘を指差して尋ねる。
「な…なあ、お前…アレ見えるか…?」
「はぁ?アレって何だ?」
不思議そうに首を傾げる同期…。
自称妖精はニッコリと微笑んで言った。
「本当に他人には見えないのよ…」
(ほ…本物なのか…)
命綱を付け双眼鏡をぶら下げてアルフレットは不思議な気持ちで見張りをする。
(未だに信じられない…船の精霊だなんて…)

 数日後、エスメラルダ号は無事に航海を終えて母港に戻った。
王国海軍の元提督であるアルフレッドの祖父が出迎えに来てくれていたので、彼は思いきって船の精霊の事を祖父に打ち明けてみた。
「ふむ…お前にも見えたか」
「えっ!?」
「彼女は自分を見た人間が過去に一人だけ居たと言っていたそうだな…それは私だ」
「お祖父様が…!」
「何度か沈没の危機になった嵐を耐えきった話は知っているな?いずれも彼女が私の傍にいてアドバイスしてくれたからだ。風と対話してな…」

祖父の足は自然とエスメラルダ号へと向かう。
アルフレッドも後に続いた。
軍関係者は敬礼して出迎え、操舵室がある艦橋へと通された。
「これは提督…!」
「ハハハ…“提督”はよしてくれ、艦長。今はもう退役した身だ」
祖父は笑って言う。
「アルフレッドの事だ…船酔いしただろう?」
「ええ、何度か見かけましたが…しかし弱音を吐いた事は一度もありませんでした」
「ハハハ…面目無いです…」
アルフレッドは笑うしか無かった。
本当は帰ったら士官学校を辞める気だったので、最後の航海で人前で弱音を吐くような情け無い真似はするまいと決めていたのだ。
祖父は言った。
「気にする事は無い。ワシも若い頃は船酔いしていたのだ」
「「えぇっ!!!?」」
アルフレットも艦長も驚いた。
「は…初耳です…!」
「だろうな…広報の連中が、ちと記録を改竄したからなぁ…」
楽しそうに微笑みながら祖父は舵輪の前に立ち、愛おしげに撫でた。
「「……」」
二人は唖然として顔を見合わせる。
一人の士官が言った。
「提督はこの艦に思い入れがあるのですね」
「ああ、人生そのもの…妻よりも長い付き合いになったからな、この姉妹達には…。息子二人も乗り、さらに孫まで世話になった…我がノートン家の歴史はまさにこの姉妹達と共にあったと言って良いだろう…」
そう言って微笑むアルフレッドの祖父…ホレーショ・ノートン元海軍提督…その視線の先には一人の少女がいて、彼に微笑み返していた。
彼女が見えるのはホレーショの他にはアルフレッドだけだった。


それから数日後、アルフレッドは海軍士官学校の校長室に呼び出された。
行ってみると校長と数人の教官達が顔を揃えている。
何やらただ事ではない雰囲気…。
「な…何でしょうか…?」
恐る恐る尋ねる。
「そう固くなるな、ノートン候補生。突然だが君、極東に行ってみる気は無いかね?」
「極東!?」
「ああ、極東の島国“フヨウ国”だ。聞いた事ぐらいはあるだろう?」
「はい、存じております」
フヨウ国…彼らの文字では“芙蓉國”と表記する。

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