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征服と支配
官能リレー小説 - 戦争

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征服と支配 7

皇家に外部の血が混じる事を嫌い、皇族内での近親婚を繰り返して来たためである。

イストニア人は天の神々の血を引いた世界に唯一無二の神聖なる民族であり、その皇族は最高神たる雷神ロトの直系とされていた。
この雷神の血統を薄めないためには限られた一族同士を掛け合わせていくしか無かった。
かつては兄妹婚、姉弟婚、父娘婚が平然と行われていたが、遺伝に関する研究が進んで来ると『さすがに家族同士はマズいのでは…』という事になり、現皇帝と皇后は従兄妹同士である。
ちなみに現皇帝は完全なる白痴であり、政務が執れるだけの知力も無かった。
だが式典の場などで黙って座っている限りは、それがかえって非人間的で、見る者に神々しささえ感じさせ、神聖なる帝国の象徴としてはそれで充分だった。

(彼女は父親である皇帝のように、黙って座っていてはくれないだろうな…)
アルトは思う。
しかしてエーディット皇女は高らかに宣言した。
「お前達は妾が皇族であるという事で、どうせ何の役にも立たないお飾りの総司令官であろうと思っているのであろう!しかし妾はいわゆる一般的な皇族軍人とは違い、きちんとこのエルミナ進攻軍の総司令官としての職務を果たしていきたいと思っておるので何も問題は無い!」
(((問題しか無い!!!!)))
皆は心の中で叫んだ。

そんな皆の内心など知る由も無いエーディットはさっそく行動に移ろうとする。
「…さて、それではさっそく現場の様子を見て回るとしようではないか!悪い所はどんどん指摘して改善していくのでそのつもりでおれ!」
皆はギョッとした。
特に問題も無くやっているのに、引っ掻き回されては堪らない。
一人の中将が提案した。
「そ…それより皇女殿下、慣れぬ長旅でお疲れでしょう。旧エルミナ王宮へご案内いたしますので、ごゆるりとおくつろぎ…」
「このたわけ者ぉ!!!」
「はぁ…っ!?」
中将は何が皇女の気に障ったのかまったく解らなかった。
「貴様にはこの階級章が見えぬのかぁ!!?妾の事は“皇女殿下”ではなく“元帥閣下”と呼ぶのだ!!!皆も良く覚えておけ!!!もし次に妾を“皇女”と呼んだ者があったら雷神ロトに誓っても良いが妾のこの手で首と胴を永遠に訣別させてやるからなぁ!!!解ったかこの愚か者共ぉ!!!」
中将はカツンと踵(かかと)を鳴らして敬礼して言った。
「は…はいぃ!!以後気を付けます皇女殿下ぁ!!…あ」
「……殺す!」
そう言うが早いかエーディットは腰に下げていたサーベルを抜いて中将に斬りかかった。
「ひいぃ〜っ!!?お…お助けぇ〜っ!!!」
中将はすんでの所で刃をかわして逃げ出す。
その先にアルトがいた。
「あぁ!!シュテルン大佐ぁ!何とかしてくれぇ!」
「な…なぜ私の方にぃ…!?」
「待たぬかぁ!!!」
エーディットが斬りかかって来る。
「うぉ…っ!!」
アルトはとっさにサーベルを抜いて彼女の剣を止めた。

キイィンッ!!

刃と刃の当たる鋭い音が響き渡った。
(しまったぁ…っ!!)
アルトは真っ青になった。
正当防衛とはいえ、皇族に刃を向けてしまった。
大罪である。
ところが…
「フン…興が醒めた。今日はもう休む」
そう言うとエーディット皇女はあっさり剣を収めて踵を返し、去って行った。
「「た…助かったぁ…」」
アルトと中将は脱力した。


しかし物事どうなるか分からないものだ…とアルトはつくづく思う。
あれから一週間が経った。
彼は何故か皇女に“懐かれてしまった”。
「シュテルン大佐!今日は街の視察へ行く!貴官には妾の供をする栄誉を与えよう!光栄に思うが良い!」
こういうのがここ最近毎日なのだ。
「お…恐れながら元帥閣下…私は連隊長としての仕事が…」
やんわりと断ろうとするアルトに部下達は言う。
「大佐!連隊の諸事は我々に任せて、大佐はどうぞ元帥閣下より賜った任務をお果たしください!」
「お前ら…」
アルトは部下達に恨めしげな視線を向けた。
部下の一人が声を潜めて言う。
「お願いしますよ大佐…お姫様は何故かあなたがお気に入り…あなたがお相手をしておられる限りご満足らしい…抑えられるのはあなただけなんです…」
確かに、下手に軍の指揮などにやる気を出されては軍が壊滅する恐れがある。

現在、シュルツ上級大将を事実上の最高司令官としてエルミナ王国軍の残党討伐作戦が進行中である。
王都を奪われたエルミナ王国軍は山へ逃げ込み、ゲリラ化して抵抗を続けている。
シュルツはイストニア帝国の将軍にしては珍しい慎重派の軍人だ。
小規模な小競り合いを繰り返し、ゲリラの拠点を一つ一つ着実に潰している。
時間は掛かるが結果は出す。
短気が多い帝国軍上層部の面々はお気に召さないようだが…。

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