PiPi's World 投稿小説

華が香るとき
官能リレー小説 - その他

の最初へ
 37
 39
の最後へ

華が香るとき 39

どこにあったのか雪乃が洋介に朱肉を突き出す。
「はい…」
言われるままに右手の親指に朱を付け、拇印を押す。それを見届けた雪乃はすぐさま書き付けを洋介から引ったくった。乾くのを待ってメイド服の中に後生大事にしまいこむ。
「しめしめ。これで洋介様は一生わたくしのご主人様…」
「え…?何ですって…?」
「何でもありません。大変結構ですわ、洋介様。不束者でありますが、これからもよろしくお願いいたしますわね」
雪乃は洋介に向かって優雅に一礼したが、その表情は金銀財宝をしこたま分捕った女海賊のようににやけていた。
「こちらこそ…」
辛うじて洋介は答えたものの、その声は蚊取り線香にあてられて墜落寸前の蚊が鳴く程度のものであった。
「ところで洋介様、着替えをさせていただいてよろしいでしょうか?このまま外に出るわけにも参りませんので」
「どうぞ…」
洋介は一秒で了承した。しかし一つの疑問が湧く。
(着替えなんかどこにあるんだろうか?)
もはや直接口に出して尋ねる気力もない洋介は、黙って雪乃の動向を見守った。雪乃は「ありがとうございます」と言って一礼し、例のワゴンへと歩いて行く。
彼女はワゴンの引き出しを開けると、そこからきちんと畳まれた新しいメイド服を取り出した。
「えっと、それは…?」
取り出されたメイド服を指差して何か尋ねようとする洋介を完全に無視し、雪乃は破れたメイド服を脱ぎ始めた。
「あの、何でそんなところにスペアが…?」
「洋介様、着替えますので後ろを向いていていただけます?」
「いやだから、どうしてそこに新しいメイド服が…?」
「もちろん、ご覧になりたいのでしたらお見せしますわよ?」
「いえ…遠慮します…」
雪乃をこれ以上追及する気力は洋介に残されていなかった。
大人しく雪乃に背中を向ける。
(証拠はないけど、何だか始めから終わりまで雪乃さんに仕組まれていた気がしないでもない…)
着替えを待つ間、洋介はそんなことを考えていた。やがて、
「終わりましたわ。こちらを向いてくださいまし」
と雪乃から声が掛かる。洋介が振り向くと、そこにはこの部屋に入って来た時と変わらない、完璧にメイド服を着こなした雪乃の姿があった。
「洋介様、それでは失礼いたしますわ。わたくしはこれからこのティーセットを洗って証拠を湮滅…もとい洋介様の歓迎会の準備をせねばなりませんので」
「はい。あとで…」
雪乃はドアを開けるとワゴンを押して部屋の外に出た。振り返って恭しく洋介に一礼する。
「では、後ほどまたお目にかかりますわ」
雪乃は静かにドアを閉じる。彼女の姿が見えなくなった瞬間、緊張の糸が切れた洋介は再びその場にへたり込んだ。立とうとしたが今度は動けない。限界を超えて体力を消耗してしまったようだ。おそらく明日は筋肉痛だろう。
「どうなるんだ、俺は…?」
閉じたドアをぼんやりと見つめながら、洋介は己の将来に限りない不安を覚えるのであった。

SNSでこの小説を紹介

その他の他のリレー小説

こちらから小説を探す