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華が香るとき
官能リレー小説 - その他

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華が香るとき 38

「分かりました…大体いくらくらいでしょうか?分割払いは利きますか?」
これを聞くと雪乃は声を荒らげた。
「何を言われるんですの!わたくしが洋介様にお金を要求するとでも!?」
「え、違うの!?」
洋介は面食らい、戸惑った。それでは一体何を要求されるのだろうか…
「わたくし…洋介様のお気持ちを紙に書いて表して欲しいんですの。それをいただければ他にもう何も要りませんわ」
「はあ…」
そんなものが何の役に立つのか分からないが、それで雪乃が立ち直ってくれるなら言うことはない。洋介は了承した。
「分かりました。書きましょう」
洋介の部屋には先程紅茶を飲んだテーブルとは別に勉強机が置かれていた。その机に洋介は向かう。机には紙とペンが備え付けられており、洋介はそれを使って文章を書き始めようとした。
(さて、何て書くか…タイトルは『お詫び状』でいいかな…)
しかし洋介まさに書き出そうとしたその時、雪乃は彼を押し止めた。
「お待ちください!」
「え?何か?」
「洋介様。その文章は私がお書きしますわ。洋介様はサインだけなさってくださいまし」
「え?」
(俺の気持ちを俺が書かなくていいのか?)
そう思いながらも洋介は机を雪乃に譲った。机に向かってしばらく紙にペンを走らせていた雪乃は、やがて一枚の書き付けを完成させる。
「できましたわ。サインをお願いいたします」
雪乃が席を立ち、洋介が改めて机に向かう。机に置かれた書き付けを見てみると、それは非常な達筆で書かれていた。あまりに達筆すぎて内容が一言半句も読み取れないほどである。
「えっと。これは…?」
「サインをお願いします」
「一体何て書いて…?」
「サインをお願いします」
「あの、俺にも読めるようにもう一度書いて…」
「やはりお気持ちは形にしていただけないのですね…わたくし生きる希望を失いましたわ。これで失礼させていただきます」
雪乃は窓際まで歩いて行くと窓を開いた。
「雪乃さん、何を!?」
さらに雪乃は窓枠に足をかけて身を乗り出して飛び降りようとした。驚いたのは洋介である。
「ま、待って!雪乃さん!」
洋介は雪乃に駆け寄ってその体を抱きしめ、飛び降りさせまいとした。振り切ろうと暴れる雪乃をようやくのことで部屋の中に引き戻す。
「放してください洋介様!わたくしは…」
「もういい!分かった!俺の負け!ギブアップ!サインするから飛び降りるのはやめて!」
それを聞くと雪乃はすぐに暴れるのを止めた。のみならず今までの悲痛な様子が嘘のような、輝かんばかりの笑顔になる。立ち上がると机の椅子を引き、洋介に座ってサインするよう促す。
「そうですか。サインしていただけるならいいのですわ。ささ、どうぞ。今この瞬間にどうぞ」
「はい…」
洋介はげんなりした様子で机に向かってペンを取り、タイトルすら理解できない書類にサインをした。
「これでいいですか…?」
「拇印も押してくださいまし」

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