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華が香るとき
官能リレー小説 - その他

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華が香るとき 168

「起訴状! 被告人木之花洋介様は20XX年、○月×日午前7時頃……」
「?」
海女姫の読み上げた日付と時刻を聞いて、洋介は違和感を覚えた。昨日ではなく今日の朝だったからだ。今自分が裁かれているのは、昨日雪乃を襲った件ではないのか? そもそもその時間、自分は何かやっただろうか? 洋介の困惑を余所に海女姫の朗読は続く。
「……木之花家の正当かつ唯一の後継者として、同家で労働に従事するメイド達に対して心身両面でのケアを行う義務を負っているにも関わらず、これを放棄し、複数のメイドに精神的苦痛を与えました」
「……はい?」
思わず洋介は、間の抜けた声を出してしまった。もちろん、追及をはぐらかすためなどではなく、海女姫の言うことが全くもって理解できなかったからである。しかし、その場にいるメイド達には理解できたらしく、場はザワザワとどよめいた。
「ひどいわ。洋介様ったら……」
「これはしっかり反省していただかないと……」
「えっ? えっ? 皆さん、これは一体どういう……」
「被告人静粛に! 起訴状朗読の妨害は許されませんわ!」
ドガアアン! と雪乃がトンカチを打ち付け、洋介は耳鳴りがしそうになった。
そして、海女姫の朗読は続く。
「さらに本日、午後2時頃、被告人は正当な御奉仕の権利を持たない、メイド擬き共の案内を受け入れ、島内の散策に赴きました。彼女等を拒絶しなかったことはメイドの秩序を著しく乱す行為であり、被告人の罪状は極めて重いと言わざるを得ません。以上2つの罪状により、検察側は……」
これは何を言っているのか、洋介にも分かった。郷子達に連れられて、たった今まで発電所見学に行っていた件だ。郷子達を殴り飛ばしただけでは飽き足らず、洋介も吊し上げるつもりらしい。
(でも、それはさすがに言いがかりだ。きちんと反論して、郷子さん達の仇を取ってやろう)
そんなことを思う洋介。そして海女姫は一度言葉を切り、法廷全体をぐるりと見渡してから、こう言った。
「検察側は、オナニー禁止の刑を求刑いたします」
「…………………………………………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………はい?」

不可逆であるはずの時の流れが、確かに停止するのを洋介は感じた。海女姫が何を言っているのかが理解できない。彼女の言葉自体は空気の振動として洋介の鼓膜に達し、耳小骨を経て脳に伝わっているのだが、その脳がストライキを起こし、意味を解釈することを拒絶していた。
物心付いて以来、オナニーの神秘を探る旅路を続けてきた洋介にとって、オナニー禁止は例え可能性に過ぎなくても、それ即ち人生の否定に等しい。海女姫の求刑を受け止めきれずに脳が一時停滞したからと言って、誰が責められるだろうか。
しかし、洋介以外の者の時間は、無情にも平常通り運行されていた。満場のメイド達は海女姫の求刑に「「「異議なし!」」」の声援を送りながら割れんばかりの拍手を打ち、雪乃がトンカチを叩き付けて言う。
「検察の求刑、もっともですわね。では判決を……」
「はうあ!!」
ここに至り、ようやく洋介の脳が覚醒し、渋々ながらも現状を認識した。何しろ雪乃はまともに裁判を進行させる気がないのだ。黙っていたら勝手に判決を出されてしまう。その後で間違いなく彼女は、洋介が隠れてオナニーをできないようあらゆる手を尽くすだろう。
何しろ雪乃一派は数が多い。例えば数人一組のローテーションで、24時間体制のオナニー妨害などやられては、さすがの洋介も往生するのは必至であった。
どうにか無罪判決を勝ち取るしかない。洋介は手を挙げて発言した。
「ま、ま、待ってください!」
「なんですの被告人? 毎回うるさいですわよ」
雪乃が鬱陶しそうに答えるが、洋介はそれには答えず、命に向かって言った。
「ほら、弁護士さん。出番出番!」
「え? 何が?」
怪訝そうな表情で尋ねる命。

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