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華が香るとき
官能リレー小説 - その他

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華が香るとき 162

雪乃は足を肩幅程度に開き、両手を拳にして目の高さに構えた。左手、左足が少し前の半身になっている。
「フフ……」
それを見た郷子は、薄く笑うと、少しでも動きやすくするためか、両袖を千切ってかなぐり捨てた。そして両手を開いたまま前に突き出し、前かがみの姿勢になる。
「ま、待ってください!」
ここに来て、ようやくショックから立ち直った洋介は、2人の間に割って入ろうとした。さすがに、女性が喧嘩を始めるのを見過ごす訳には行かない。
だが、一歩前に出ようとした瞬間、洋介は誰かに後ろから両肩を掴まれた。
と思ったら、急に腰が抜けた感覚がして、尻餅をついてしまう。
「え……?」
何が起きたのか分からない洋介は、思わず後ろを振り返った。見ると、栗色のふわりとしたロングヘアーで、上品な顔立ちのメイドが、自分の両肩に手を置いている。
「い、一体何を……?」
「お初にお目にかかります。わたくし、波々矢海女姫と申します。どうぞお見知り置きを、洋介様」
「はあ、こちらこそ……」
洋介は咄嗟に、海女姫と名乗った栗色の髪のメイドに挨拶を返したが、すぐにそれどころではないことを思い出した。
「そうだ! 2人を止めないと……うっ!」
ところが、洋介は立ち上がることができなかった。海女姫がよほど強い力で洋介の肩を押さえているのか、あるいは何かの技を使っているのか、洋介の大柄な体をもってしてもびくともしない。
「は、放してください!」
海女姫に懇願するが、その返事はにべもないものだった。
「あらあら、洋介様ったらはしたない。女性(にょしょう)の戦いの庭は静かに見守るのが、殿方の心得というものでしてよ」
「そんな無茶な……」
洋介は抗議したが、海女姫は全く放してくれる気配がない。
しばらくジタバタしていると、横から頭を軽く小突かれる。
「痛っ! 誰だよ?」
洋介は怒り気味に訊ねた。海女姫は両手がふさがっているから、彼女ではない。洋介が小突かれた方を振り向くと、そこには、小柄で黒髪をベリーショートにしたメイドがいた。いや、正確に言うと、背が低くて目つきの悪い、到底メイドには見えない短髪の女が、メイド服を着て立っていた。
「うるさいよ、洋介様」
短髪の女は、洋介をたしなめるように言った。まるで、洋介の方が悪いと言わんばかりだ。
「あ、あなたは一体……?」
どこのスケ番ですか? 何でメイドのコスプレしてるんですか? そう訊ねようとした洋介だったが、その意図が伝わることはなかった。
「あたしは衆殿命。今日から洋介様に仕えるメイドだよ」
「ええ〜? メイド? 嘘でしょ」
思わず言ってしまった洋介は、次の瞬間、凍り付くような視線を浴びるのを感じた。もちろん命が睨み付けて来ているのだ。途端に洋介は、何も言えなくなった。
「…………」
「あたしがメイドで、何か文句あるの? 洋介様」
「いえ、何もないです……」
「よし」
やっと命は、視線を外してくれた。

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