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華が香るとき
官能リレー小説 - その他

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華が香るとき 158

「んんんんんんんん……」
その様子は、さながら動物園の檻の中をせわしなく動く熊のごとくであった。そうして室内を十数周したところで、ドアをノックする音が鳴らされた。雪乃はその声に問いかける。
「どなたですの?」
「衆殿だよ。波々矢も連れてきた」
「お入りなさい」
「はいよ。お邪魔しまーす」
ドアが開かれ、2人のメイドがメイド長室に姿を現した。最初に挨拶したメイドは名を衆殿命(みこと)という。雪乃より少し背が低く、髪は黒のベリーショート。
袖と丈の短い、活動的なメイド服を着ているが、その吊り上がった三白眼は尋常ならざる威圧感を放っており、とてもメイドという職業に向いているとは思えなかった。
「お待たせいたしました。失礼いたします……」
続いて挨拶したのは、波々矢海女姫(あまき)である。雪乃より幾分長身だが、郷子ほどではない。ふんわりした栗色の髪は、太股辺りまで達している。丈の長い正統的なメイド服を着ているが、代わりにドレスでも着ていれば、どこかいいとこのお嬢様にしか見えないだろう。それほど上品で優しげな容貌だった。
「んで、どったの? メイド長」
右手に持った瓶入りのコーラをラッパ飲みしながら、命は質問する。その態度と言い口調と言い、とても上司に対するとは思えない横柄なものだったが、雪乃はいささかも気にかける様子を見せず、さらりと返答した。
「デルフリンゲルの大うつけが、身の程知らずにも洋介様を連れ出しました」
「何ぃ!?」
それを聞いた瞬間、命の手の中で、コーラの瓶が粉々に砕け散った。特注の最高級絨毯の上に、ガラスの破片と褐色の液体が景気よく飛び散っていく。
「あらあら。はしたないこと」
海女姫が口に手を当て、クスクスと命の行為を笑った。雪乃の方は、汚れた絨毯を一瞥しただけで特に何の反応も示さない。汚れたら綺麗にすればいい、綺麗にならなければ取りかえればいいという、実に豪邸のメイドらしい割り切った考え方だった。
一方、当の命はと言えば、瓶を握り潰した程度では到底収まる様子がなかった。
「デルフリンゲルの糞ったれが……今すぐ行ってブッ殺してやる」
「まあ、ブッ殺すなんて品のないこと。もっとお上品に、幽明境を異にする、とおっしゃいなさいな」
たしなめる海女姫の言葉も、意味するところは同じであった。いかにも喧嘩っ早そうな命に比べて、海女姫はどこかおっとりした雰囲気を持っているが、それは世を忍ぶ仮の姿である。実際の彼女は古流柔術の練達の使い手であり、これまでにへし折った骨は数知れずという猛女であった。
ともあれ命、海女姫の両名とも、郷子に対して相当の殺意を抱いたらしい。その様子を見た雪乃は満足げに頷き、おもむろに命令を下した。
「これより、わたくし達は洋介様の奪還に赴きます。お前達は皆を呼び、玄関口に集めなさい」

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