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華が香るとき
官能リレー小説 - その他

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華が香るとき 151

それから少しの間、機体の中は静寂に包まれた。やがて再び、八潮の声が聞こえてくる。
『照準しました。照射してよろしいですね?』
念を押されたグレイシアは、ちらりと洋介の方を振り返った。デモンストレーションを始める前に、観客である洋介の心の準備ができているか知りたいのだろう。洋介はグレイシアに小さく頷いて見せ、「お願いします」と返事をした。
「いいぞ。やれ」
洋介の意志を確かめたグレイシアが、マイクに向かってゴーサインを出した。それを受け、八潮はデモンストレーションの開始を宣言する。
『分かりました。では参ります。5、4……』
機体の中に、八潮のカウントダウンが響きく。洋介は固唾を飲み、決定的瞬間を見逃さないようモニターを凝視した。
『3、2、1、0!』
(来る!)

…………
…………
…………
…………

(あれ?)
ところが、カウントダウンがゼロになってもモニターの中では何も起こらなかった。吹き流しは相変わらず、ひらひらと風になびいている。
(八潮さん、ボタンでも押し間違えたのかな?)
洋介が怪訝に思った瞬間、機体に異様な振動が走った。
ガガガッ!
「うわ! なんだ!?」
驚いた洋介は、機体の外を見渡した。何が起きているのか分からない。震動はすぐに収まったが、スピードが徐々に落ちていくようだ。
「洋介様。緊急事態です。鏡で反射した光がこの飛行機に当たりました!」
うろたえていると、計器を見ていたグレイシアが悲痛な声で告げてきた。それを聞いた洋介の脳内で、『そんな馬鹿な』という思いと、『やっぱりそうなったか』という思いが交錯する。
「も、もう飛べないんですか?」
「無理です。エンジンが停止しました。このままでは……」
墜落するというわけか。さしもの洋介も、脇に汗をにじませた。自分達は助かるのだろうか。もし死を覚悟しなければならないなら、最後のオナニーを……
『申し訳ありません! こんなはずでは……』
スピーカーから八潮の声が聞こえてきた。向こうは向こうでパニックに陥っているようだ。グレイシアがマイクに向かって怒鳴り返す。
「今そんなことを言っている場合か! 我々は脱出する。救助の用意をしろ!」
『は、はいっ!』
スピーカーの向こうが慌ただしくなった。グレイシアはマイクを額まで持ち上げ、洋介に話しかける。
「お聞きの通りです、洋介様。ただちに脱出していただきます」
「脱出!? 脱出って映画とかでよくやってる、ロケットで飛び出してパラシュート開くあれですか?」
「その通りです。洋介様」
どうやら、最後の一発を抜く必要はなくなったらしい。多少安心した洋介だったが、考えてみればパラシュートで降りたことなど一度もない。ぶっつけ本番もぶっつけ本番で、果たしてうまくやれるだろうか。
「座席の右側の足元に、赤いレバーがあります。それを引けば脱出できます」
「は、はい……」

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