華が香るとき 15
そう言って、洋介のおでこにちゅっとキスをしてくれる。
「あっ…」
女性特有の甘い香りが洋介の鼻をくすぐる。しかも想像を絶するような美人である。その様な女性が満面の笑みで洋介に微笑みかけてくれては、洋介にとっては堪ったものではない。
「ううう…」
やはり洋介はこの人物には勝てないようだ。
「さあ、洋介さんご飯を食べましょう」
「えっ!?でも…、どうやって食べれば…」
「洋介さんが食事を取る方法って、一つしかないですよ?」
そう言ってその人物は今まで見せた中で一番妖しげな笑みをこぼす。
「えっ…!?それってもしかして…!?」
「ふふふ…!?さあ洋介さん…。覚悟は宜しいですか?」
(‘覚悟’って何の覚悟だよ)と洋介は心の中で思いながらも、その人物の妖しげな笑みを見て、ゾクッとするのである。
「はぁい…洋介さん、あ〜ん…」
そういって、満面の笑みで洋介の口にご飯を差し出してくる。
(はあ、やっぱりかぁ…)
と愚痴をこぼしながらも、洋介は本人の意思かどうかわからないが口を開けて、嬉しそうに食べさせてもらうのであった。
洋介はそれからが大変だった。
「あ〜、酷いです。私も洋介様にお食事を食べさせて差し上げたいです」
と何人ものメイドが洋介に群がってきた。
どうやら女ボスは他のメイド達には内緒で洋介の所に来ていたようだ。
「あの…、自分で食べれますから、手の縄を外してもらえませんか?」
女ボスとメイド達の気迫の迫った妖しい笑みが怖かったので、洋介が恐る恐る尋ねると、
「それは出来ません。洋介さんの縄を外してしまって、洋介さんに逃げられると困りますので…それに私…」
「えっ?」
洋介はいまいち女ボスの発言が理解できないでいた。
女ボスは真剣な眼差しでそう答えたのだが、すぐに自分が言った事がヤバかったと思ったらしく、先程の発言の訂正をする。
「あ…、いえ…。えっと…、兎に角ですね…、洋介さんに逃げられたら困るんです!」
今まで女ボスは、おっとりとしながらも他の人からの意見を受け付けない様なオーラを出していたのだが、その時だけは、居心地が悪そうにし、あさっての方向を向いてしまった。
洋介は(あ、可愛い)と思いながらも、今までの事や今自分が置かれている状況を考えるとヤバイと思い、先手必勝なのか口を開けた。
洋介が口を開けたのを見て、女ボスは今までの勢いがどこに行ったのやらという感じの満面の笑みで洋介の口に食事を運ぶのであった…。