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華が香るとき
官能リレー小説 - その他

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華が香るとき 129

「今回の報告を私のところで保留にしても構わないということです。もちろん洋介様のお許しがあれば、ですが……」
そう言うと、郷子は洋介の顔を覗き込んできた。洋介は当然、一も二もなく肯いてみせる。
「…………」
それを見た郷子は、一瞬複雑そうな表情をした。洋介が華恋をかばったのが気に入らないのかもしれない。しかしすぐに元の余裕しゃくしゃくな態度に戻り、華恋に向かって口を開く。
「お許しが出ました。よかったですね、伊予野所長」
「……本当ですか?」
郷子の台詞を聞いても、華恋は未だ半信半疑の様子だった。洋介が告げ口しないことは容易に信じられても、郷子が黙っているとはなかなか信じられないのだろう。そんな華恋に向かい、郷子はいきなり斜め上の発言をかました。
「言うまでもありませんが、タダではありません。今後は私の派閥のために、いろいろと便宜を図っていただきます」
「ぐはあっ!」
あまりにエゴ剥き出しな郷子の物言いに、洋介はひとたまりもなく精神的ダメージを負った。そもそも今の話の流れからして、被害を受けたのは洋介ということになっているはずである。それを内々でもみ消すのに、どうして郷子が対価を要求するのであろうか(しかも洋介の目の前で)。誠に理解不能だが、その思いを口に出す勇気は、洋介になかった。
「…………」
「分かりました……」
洋介が黙り込んでいると、華恋が苦虫を噛み潰した表情で承知した。屈辱を感じているせいかその目は血走り、握り締めた拳には血管が浮き出ている。
恐らく彼女も、洋介が感じているのと同じ矛盾を感じているに違いない。しかしながら今の彼女に、それを指摘することは不可能だった。
「大変結構です、伊予野所長」
「くっ……いつか見てなさいよ……」
「何か?」
「いえ。何でも……」
「そうですか。それではこれで私共は失礼いたします。本日はお疲れ様でした。ごきげんよう」
郷子は洋介を抱いたまま、華恋に向かって優雅に一礼した。部下のメイドが二人進み出て、両手のふさがったボスの代わりにスカートを摘み上げる。絵に描いたような慇懃無礼さだった。
「ぐっ……洋介様、今日のお詫びは後日必ずいたします。いずれまた……」
「は、はい。また……」
華恋は洋介だけに挨拶すると、くるりと踵を返し、大股で歩み去って行く。
「うう、一体誰がハッキングなんか……絶対見つけ出して殺してやるわ……」
という怨嗟の声が風に乗って洋介の耳まで漂ってきた。その姿を見送った洋介は、郷子に恐る恐る話しかける。
「あ、あの……」
「何でしょうか、洋介様?」
「ほ、本当に大丈夫なんですよね? その、伊予野さんは……」
「もちろんです。洋介様が心配される事は何もありません」

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