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華が香るとき
官能リレー小説 - その他

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華が香るとき 126

(でも、伊予野さんが大丈夫って言ってるんだ。大丈夫だろう、多分……)
洋介はあえて不安を退けた。じっと成り行きを見守る。横から吹いて来る自然の風が、洋介がまとう毛布をわずかにはためかせていた。少し経つと風車からモーター音らしきものが聞こえ、二枚の巨大な羽根が回り始める。時計の秒針のように、ゆっくりとした動きだった。
さすがにいきなり速くは回らないようだ。だがそのスピードは次第に増し、やがて停止する前をしのぐ勢いとなった。それと前後して、羽根によって生み出された風が洋介達のもとへと届けられる。
「あっ……」
最初のうちは、ちょっと風向きが変わったかと感じる程度だった。しかし羽根の回転がさらに上昇すると、風車から風が来ている事がはっきり分かるようになる。いつしか毛布のはためきも、先程に比べて強くなっていた。
(どうやら、うまく行っているみたいだな……)
そう考えた洋介は、何か感想を言おうと口を開きかけた。が、次の瞬間、彼の目は再度驚愕に見開かれる。あろう事か、風車のてっぺんから火が噴き出したのだ。
「うお!」
思わず洋介は華恋の顔を見つめた。今度こそ事故じゃねえの!? 事故じゃねえの!?
しかし、彼女は今回も落ち着き払っていた。
「あれはジェットエンジンです、洋介様」
「ジェットエンジン?」
「はい。作り出す風があまりにも強力なので、そのままだと反動で風車が倒れてしまうのです。それを防ぐためにジェットエンジンを動かし、反対側に力を加えています」
「そ、そうでしたか……」
微笑んで答える華恋。洋介は複雑な面持ちで頷いた。またしても事故でなくて幸いだったが、どうにも無駄なサプライズが多過ぎる気がする。
(もしかして、この後もずっとこの調子なのかな。帰るまでに何秒寿命縮むんだろう……)
そんな事を思った洋介だったが、すぐにそれ所ではなくなった。風車の回転がさらに激しさを増し、一層強烈な風が彼を襲ったからである。まとった毛布が吹き飛ばされそうになり、慌てて押さえつけた。リアル北風と太陽だ。
(こりゃ凄いな。そろそろ止めてくれるとありがたいんだけど)
若干顔をしかめた洋介だったが、ふと華恋の様子がおかしい事に気が付いた。今までとは打って変わった真剣な顔つきで両手を動かし、制御の建物へとしきりに合図を送っているのだ。余り返事を聞きたくなかったが、勇気を振り絞って洋介は問いかけた。
「どうしたんですか!」
出したくて大声を出した訳ではなかった。すでに耳元で風がビュンビュン唸るようになっており、かなり大きな声で叫ばないと相手に通じないのだ。華恋は合図を中止して洋介の方に振り向き、彼と同じぐらいの大声で答えた。
「申し訳ありません洋介様! ここまで出力を上げる予定はなかったのですが……すぐに停止させます!」
「!」
それを聞いた洋介の顔から血の気が失せた。今度こそ本当にトラブルらしい。最高に嫌な三度目の正直である。

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