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華が香るとき
官能リレー小説 - その他

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華が香るとき 125

未だ恐慌状態から脱し切れない洋介に、華恋が謝罪して来た。
「あのタワーは、ある目的のために傾ける事ができるようになっているんです」
「ある目的……」
「先程も申し上げましたように、この風車は木之花重工業が特別に設計開発したものなのですが……実はその際に特別な指示が上の方からあったのです。曰く、島では風の吹かない日もある。そんな時でも外が暑くならないように、風車に巨大扇風機としての機能を付けてほしいと……」
「はあ……」
洋介は呆れた。一体誰がそんな指示を出したのだろう。やはり桜か菫だろうか。はたまた例のジジイが気まぐれの発作を起こしたのか。
(おかげで寿命が3秒は縮んだな。まあ、タワーの根本が布で覆われてる訳は分かったけど……)
そんな風に考える洋介に、華恋は説明を続けた。
「設計スタッフは奮闘し、注文以上の完璧な物を作り上げました。島のすみずみにまで風が行き渡るよう、風車を傾ける装置まで作ったのです」
「へえ……」
「ところが……実際に設置してみると全く使い物にならない事が判明しました。島中に風を届かせようとして強く回すと、風車の近くでは風が強くなり過ぎたのです。試運転の時、この周辺にある森の木は根こそぎ倒れました」
「そ、そうでしたか……」
何と言ったらいいのだろうか。かける言葉がなかった。
「せっかくの羽根やタワーを動かす制御システムも、本来の目的には結局使われず、風車に盆踊りを踊らせて客寄せをするのに使われるという有様……」
「踊るんですか、あれが!?」
洋介はその光景を思い浮かべた。八つの巨大な風車が一斉に踊り出す様は、さぞかし壮観に違いない。
「それじゃ、今日はその盆踊りを?」
「いいえ。そうではありません」
華恋はキッパリと否定した。
「本日はこの風車本来の性能を洋介様にご覧いただこうと思いまして。準備を整えておきました」
「え? 本来の性能?」
洋介は軽い戦慄を覚えた。本来の性能という事は、つまり……
「でもさっき、木が倒れたって……」
「パワーを調整いたします。ご心配には及びません」
自信たっぷりに断言する華恋。洋介は嫌な予感がしたものの、そうまで言い切られては黙るしかなかった。
「はあ……それじゃお願いします」
「はい。始めさせていただきます」
華恋は風車の方へと右手を差し伸べた。つられて洋介がそちらを向く。するとそれを待っていたかのように、停止して傾いた風車がぐるりと首を回した。ちょうど洋介達の方に正面を向けて静止する。
(ああ。やっぱりこっちに風送って来るのね……)
風車が動く所を見るだけで済むんじゃないか。そんな淡い期待を洋介は抱いていたのだが、どうやら甘かったようだ。

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