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華が香るとき
官能リレー小説 - その他

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華が香るとき 116

当然のことながら洋介は仰天した。だが案内役として働いてもらう以上報酬を払うのも当然の事である。混乱の余り、向こうから連れ出しておいてそれはないだろうという考えにはたどり着けなかった。
洋介は慌てて自分のポケットを探り、財布を持って来ていないことに気が付いた。もっとも持って来ていたとしても大した金額は入っていないのだが。
「あのう、今ちょっと持ち合わせが…屋敷に戻ってから相談させていただくということでは駄目でしょうか…?」
「駄目です。こちらへ」
か細い声で許しを請う洋介を、郷子は問答無用で森の中に引っ張り込む。何だか雪乃を思わせる強引さだ。仲が悪いようでいて、案外二人は似た者同士なのかも知れないと洋介は思う。
とは言えそんな事を考えていられる余裕は長く続かなかった。森に深く入り込み、少し開けた所まで来てようやく郷子は洋介の腕を解放する。一体これからどうなるのかと洋介は不安になった。もしかして、郷子にホイホイ着いて来たのはまずかったのだろうか。
「あの、郷子さん…」
「ああ…やっとこの時が…」
「え?何ですって?」
おずおずと口を開きかけた洋介だったが、郷子が何か言い出したので聞き返した。それに応えてか、郷子は言葉を続ける。
「洋介様がこの島にいらしてから、私達はずっとあの女に邪魔され、お姿を拝見する事も満足にできませんでした…」
「そ、そうだったんですか…」
郷子の言葉に洋介は困惑した。報酬の話は一体どこへ行ったのだろうか。
そのうちに他のメイド達も姿を現し、洋介をぐるりと取り囲んだ。
「あの、皆さん…」
「洋介様はすぐそこにいらっしゃるのに、何一つして差し上げられなかった日々…」
「え、ええと、その…」
日々も何も、洋介がこの島に来たのは昨日である。しかしメイド達は郷子の言葉に肯き賛同した。
「本当に辛かったです…」
「メイドとしてここにいる意味があるのかと思いました…」
「あ、あの…」
異様な空気である。郷子以下メイド達からはまるで妖気が漂って来るようだ。思わず逃げ出したくなる洋介だったが完全に包囲され、逃げ道はなかった。
「うう…」
「しくしく…」
いつしかメイドの何人かは涙ぐんでいた。郷子は顔を上げ、彼女達に語りかける。
「泣いてはいけません。辛かった日々は今日でお終いです」
「うう、そうでした…」
「申し訳ありません…」
「あの、報酬の件はどうなって…?」
メイド達は何やらハッピーになったらしいが、洋介には状況がさっぱり見えない。恐る恐る尋ねると、郷子がキッと洋介をにらみ付けて来た。
「まだお分かりになりませんか、洋介様?」
「はい、恥ずかしながら…」
「では、ご理解いただきます」
「え…?」
いきなり洋介の視界から郷子が消える。タックルされ腰に組み付かれたと分かった時にはもう地面に押し倒されていた。

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