PiPi's World 投稿小説

悪・即・捕
推理リレー小説 - 推理

の最初へ
 -1
 1
の最後へ

悪・即・捕 1

「遺書の準備もできた。後は時がくれば」
深夜、マンションの屋上に蠢く影があった。
「君は良き友人であったが、君の父上がいけないのだよ」
蠢く影がまたひとつ増える。
「…トリックと準備をしてくれたのは感謝してる。でも、その台詞どっかで聞いたことあるんだけど」
「君は仲間だからね。緊張をほぐす為ならネタの一つや二つ」
「………」
やれやれ、二人目の影が肩をすくめる。
「余裕を求める方が無理か…ひとつ、言っておく。靴は奇麗に並べておけ」



そして、次の日の昼
雲ひとつない青空の下…
人が空を舞った。
翼を持たぬ人間は空を自由に飛ぶことはできない。
重力に縛られ地に落ちる。
決して、寂れているわけではないが静かな町並みに喧騒が走った。

人だかりを抜け一人の男がマンションの屋上から落ちた遺体に無造作に近寄ってまじまじと見る。
その男は、遺体を見ながらだが、近くの刑事らしき男に声をかけた。
「遅くなって悪かった。状況はどうだ?和田」
和田と呼ばれた刑事が振り返る。
「あ、斎藤先輩いつの間に来てたんですか?」
斎藤と呼ばれたこの男は、凄腕の刑事だ。
ほとんどの捜査員たちからも信頼を集める〜
「そんなことはどうでもいいだろう。それよりどんな感じ?」
「仏さんの名前は“白井 翔子”さん。21歳。目撃証言では、彼女(落ちた死体)が飛び降りたとき、そこには彼女以外に人影はなかったそうです。どうやら自殺のようですね」
部下の和田は斎藤にそう報告した。実際現場の状況から、ほとんどの捜査員たちはそう判断している。だがそんななか、斎藤だけがその鋭い眼光に真実を映していた。
「いや、これは自殺じゃない。おそらく……殺人だ」
「! どっ、どういうことですか!」
「問題は、死体の位置だよ」
「位置?」
言われて和田は死体を見返した。彼女は建物に沿って均等に並べられた植え込みの、ちょうど間のレンガ敷きのあたりに横たわっている。
「自殺者というのは、飛び降りる前にやはり考えるんだ。死ぬ瞬間は痛いんだろうか、とかね。だからほとんどのやつはアスファルトやコンクリートは避けようとする」
斎藤は死体を一瞥して続けた。
「少なくとも、こんな植え込みと植え込みの間は選ばない。植え込みの縁の角で頭を刔られるのを想像しちまうからな」
「な、なるほど……」
「これは殺人事件だ。和田君、すまないが彼の部屋を調べに行ってくれ。僕は一度屋上を見てから行く」
「了解しました」

SNSでこの小説を紹介

推理の他のリレー小説

こちらから小説を探す