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柳沼隼人の場合〜人食〜
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柳沼隼人の場合〜人食〜 4

柳沼が右を向くと母親が居た…林檎の皮を果物ナイフで剥いている。
「大丈夫?駄目じゃない包丁で遊んだら」
よく周りを見ると医師と看護士が左側に立っていた。柳沼の母親はその2人にこう言った。
「あの…もう退院してもよろしいですか?」
柳沼は笑顔で母親に僕が林檎を剥くと言い林檎と果物ナイフを貸してもらい、果物ナイフを母親の喉に突き刺した。その時の柳沼の顔は満面の笑顔だった。
柔らかな白い喉に、冷たく硬いナイフが沈んでいく感触はたまらなく心地よかった。それと同時に自分に負荷を与え続けていたものの存在を消すことが出来たのはこの上ない喜びであった。
すぐさま母親は手当を受けたが、傷は深く、即死状態であった。
柳沼はすぐに取り押さえられたが、彼の母親の日頃の虐待は周囲の知るところであり、彼の背中の傷が母親の仕業であることが分かり、柳沼は簡単な精神鑑定を受けて施設に預けられることとなった。
その時に柳沼が理解した生きる為に必要な簡単な法則。論理的で明解な一つの答え。
精神に負荷を与えるものは排除せよ。
そのころの柳沼はすさんでいた。施設の子供には暴力を働きときにはそれは施設の先生までに及んだ。
「弱い者は悪で強い者が正義だ」
その時の柳沼は暴力をふるった後、毎回そう言った。必然的に柳沼は孤立した。

施設の先生達はそんな柳沼を心配し、色々と気遣ったが、それら先生の諭す言葉はまるで理解できないものだった。しかし結局、柳沼の暴力癖は落ち着いていき、それにともなって柳沼は人を避けるようになっていった。
教師は弱い者を苛めるなと言うが、弱い者も凶器を持てば強くなる。柳沼が母親を殺せたのは凶器を持ったからだ。
そして、そうでなければ殺されていたのは柳沼だった。それ以外に柳沼が虐待を逃れる道はなかったのだ。だから、なにかあれば先に相手を攻撃して屈服させなければならない。
もちろん、教師はみんな首を横に振り、結局、柳沼はそうした歪んだ倫理観を誰にもうち明けることもなく成長し、大人になってしまった。
柳沼が大人になり身に付けたもの…それは、表面上だけの『善い人』。いつもたやさず笑顔を作り、部下にはおごり、絶対に怒らない、そう施設の先生がいつも言っていた。『善い子』を演じているのだ。善い人を演じている柳沼にある日、一人の女性が声をかけてきた。

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