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六花
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六花 8

「そんな女は始めてだ。楽しめそうだぜ。五十狭芹(いさせり)、お前この女の手を持っていてくれないか。」

渟名川別の言葉に、五十狭芹はしぶしぶと亜理礎の両腕をつかみ上げ、頭の上で固定した。

「これで共犯か。面倒だな。」

五十狭芹の言葉に

「次、回してやるからよ〜」

渟名川別は涎を出さんばかりに興奮していた。
その手は既に亜理礎の胸を直でこねくり回し、舌がその柔肌を蹂躙し始めた。


(ヤバイ。犯される。)

先ほど、もっと早くに剣を抜いておくべきだったのだ。
この男は弱いからいつでも刺し殺せると一瞬油断したのが、仇になった。
渟名川別の舌が、はぁはぁ言いながら亜理礎の美しい顔を舐めまわした。亜理礎はぐっと奥歯を噛み締めて屈辱に耐える。

「美貌に刻まれるその眉間のシワがたまらないね」

下卑た笑みをたたえると、太股を撫でまわしていた渟名川別の指が、ぐいと亜理礎の一番触れられたくない場所に……

「いやっ!」

亜理礎は、鋭く叫んだ。



その時だった。
シャリンシャリンシャリンという凄まじい鈴の音と供に、腹上から、重みがいっきに消えた。

「その媛を離せ。」

頭上から、聞いたことのある声がした。
渟名川別は、痛そうに自分の頭を抑えている。
鈴が幾重にも連なった束が、渟名川別の額に命中したようだった。

「姉上!」

五十狭芹は慌てて平伏し、渟名川別は、邪魔者が来たという感じでのっそりと亜理礎から離れ、平伏した。
亜理礎は上半身を起こすと、助けに来た2人の方へ向き直った。

「おさ……」

そこには、昼間に三輪の里で出会った男刑部と、それに抱きかかえられた十にも満たない童女がいた。

「大丈夫ですか。」

童女を床に下ろすと、刑部は亜理礎に手を差しのべ、ゆっくりと抱き起こした。
亜理礎は慌てて乱れた布を整える。

「恥を知りなさい。」

童女はペタペタと歩み寄ると、五十狭芹と渟名川別の頬をはたいた。何度も、何度も。
2人は神妙にそれを受ける。
奇妙な光景であった。
しかも五十狭芹は童女を「姉上」と呼んだ。どう考えても均衡がとれていない。

「とりあえずこの場を離れましょう。」

刑部は落ち着いた様子で、亜理礎の肩を庇うように抱き、その手を引いた。
渟名川別も五十狭芹も、童女の前で項垂れ、亜理礎を見ようともしなかった。



しばらく歩かされると、見たことのある廊下に出た。
元々亜理礎にあてがわれた部屋の前の廊下である。
足の指を見ると、まだ強張っている。
戦に出、何人も人を殺したことのある自分に、あるまじきことだ。
亜理礎は自分が所詮は女であるということを突きつけられたような気分になり、溜息を一つついた。
しかも刑部に助けられてしまった。

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