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六花
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六花 7

しかし亜理礎は一つ失念していた。
自分が方向音痴であるということを、である。
野外の方向は、太陽の位置や月星の位置で分るため戦に支障はないが、館内の方向感覚はイマイチであった。
またこの王宮は、同じ様な造りの廊下がいくつもある。
気付くと、全くどこにいるのか分らなくなっていた。
長い廊下の向こうに灯りが見えた。

「助かった。誰かに部屋につれて帰って貰おう。」

大王(おおきみ)に会うことを諦めて亜理礎はそう呟くと、その部屋に入ろうとした。
しかし、踏み入れ様とした途端、躊躇した。

なぜならば、部屋の中では若い女性たちがあられもない姿で、男達に酒を注いでいたからである。もちろん組み敷かれている女もいた。
男達は、王宮に招かれた有力な豪族の息子達であるようだ。
嬌声が飛び交う。
明らかにお楽しみのところだ。

(ここはマズイ。)

思って、くるりと踵を返したところ、領巾をグイッとひっぱられた。
突然のことに、さすがの亜理礎も足をとられ、ひっくり返った。

「おお。これはどこの媛か知らぬが、極上モノが舞い込まれたようだぞ。」

ぎゃははと品の悪い笑い方をして、部屋の中にいた男が、転がった亜理礎の上に跨る。
随分酒に酔っているらしく、吐く息が臭い。
顔を背けると、ぐいと頤をつままれ、正面を向けさせられた。

「渟名川別(ぬなかわわけ)殿、いい加減にしておけよ。相手にするならここの奴婢を相手にすればよい。豪族の媛などに手をだせば、あとで問題になるぞ。」

部屋の中から、別の冷静な声が聞こえたが、渟名川別は無視する。

「俺に文句を言える豪族などいないさ。なんたって、俺は后の兄だぞ。」

その言葉に、亜理礎は自分に馬乗りになっている男の顔をマジマジと見た。
ということは、この男は大彦の息子。
この馬鹿そうな男の父が、亜理礎の父武埴安を王宮から追い出した犯人というわけだ。
怒りと侮蔑から、亜理礎はペッと渟名川別の顔に唾を吐き出した。
渟名川別は驚いて目を一瞬瞑ったが、それからニヤリと笑い、その唾をペロリと舐めた。

「随分気の強い媛だな。犯しがいがありそうだ。」

言うと渟名川別は、亜理礎の胸をがしりと掴んだ。もう一方の手は布の隙間から侵入し太股を撫でまわす。

(気持ち悪っ!)

亜理礎は自分の上の男の隙を待っていた。
いくら武人とは言え、馬乗りになっている大男を跳ね返すには力が要る。
亜理礎の右手は既に、渟名川別の腰にさしてある短剣にかかっている。
これを抜いて、刺し殺そう。
そう思っていたが、その右手を別の男に抑えられた。
先ほど部屋の中から、渟名川別を制した人物である。

「この女、剣でお前のこと刺そうとしていた。」

その言葉に、渟名川別は一瞬驚いて手を止めたが、武将らしく豪快に笑い飛ばした。

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