PiPi's World 投稿小説

六花
その他リレー小説 - 歴史

の最初へ
 2
 4
の最後へ

六花 4

そして自由自在に大和中を駆け回る山の民がその情報を持っているというのは、分かる。
しかしその山の民がこの御真木の大王の膝元に出没しているということ。
それは御真木の大王は常に、大和中の情報を集めているということを示しているではないのか。

「ナツメ。口がすべり過ぎている。」

刑部は、亜理礎がそれに気付いたことを察したのか、鋭い目でナツメを制した。

「なんだいっ!折角この河内からわざわざこの三輪の地を偵察に来た媛様に色々教えてやろうと思ったのに邪魔するのかい。」

面白くなさそうにナツメはそっぽを向く。

「邪魔というわけじゃないさ。でも亜理礎媛達は、瑞籬宮に偵察に来たわけではない。王宮が完成したので、御真木の大王に招かれて、遊びに来ただけだ。何もそんな政治的な話をする必要はないだろう。」

刑部の言葉に、ナツメは噛み付いた。

「なーにが遊びに、だい。御真木の大王は、主だった豪族の見目麗しいと評判の娘を一斉に王宮に集めた。その中から気に入った者を自分のお手つきにしようとしているという話は有名だよ。后がお嬢様育ちで、ぼーっとしていることをいいことにやりたい放題ってわけだよ。」

「ええっ?」

亜理礎は初めて聞く話に驚く。
御真木即位からずっと建設中だった王宮の完成を祝った会に、地方の有力豪族の媛達が招かれたのは、単なる見世物だと思っていた。
素晴らしい王宮を見せ付け、これには敵わないと思わせ反逆する気持ちをなくさせようとしているものであると。
しかし、その来た媛達の中から自分の妾を作ろうという魂胆が御真木の大王にあったとは。

「沢山の媛を自分の物にして、その親たちを戦わずして従わせようという魂胆もあるのだろうけどね。そんなのは口実で、何より御真木の大王はスケベだよ。」


ケヘヘヘと笑うナツメに、刑部は頭を抱える。

「口が軽すぎる者は殺されるぞ。」

脅してみるが、そんな脅しが通用する相手ではないことは分っている。

今日のナツメはおかしい。
本来、飯の種であるはずの情報を、ナツメがこんな風にベラベラと無料(ただ)で喋ることはないはずなのだ。

よっぽど亜理礎が気に入ったのか、もしくは気に入らないのか……。

「そんなに好色なんて……私、今日、御真木の大王にご挨拶するよう呼ばれているのですが、欠席します。」

いくら武人と言っても、まだ年若い娘。
好色の大王に自分が蹂躙されるかもしれないかと思うとさすがに怖気づく。

「その方がいいかもねぇ。あんたみたいに気が強くて美貌を持った女が、御真木の大王は大好物だからね。しかも大王によくない感情を抱いている武埴安王の娘ときた。これを抱いて丸め込み、人質にするなんてこともしそうだねぇ。」

ここまで来て、刑部はナツメの意図するところを察した。
ナツメは、亜理礎と御真木の大王が出会わないようにしようとしているのだ。
しかし、それは何故かまでは分らない。

その時だった。

SNSでこの小説を紹介

歴史の他のリレー小説

こちらから小説を探す