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六花
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六花 3

武埴安王は、御真木の大王の伯父にあたる。
武埴安王の兄であり、御真木の大王の父である、大日々(おおびび)大王が崩御した際、次の大王として一時期、武埴安の名が挙がったことがあったそうだ。
御真木の大王は立太子していたが、若すぎるというのがその理由であったらしい。
しかし武埴安王の兄であり、御真木の伯父にあたる大彦が、自分の娘を御真木の大王に嫁がせ後見につき、あっという間に御真木を大王の地位に据えた。
大日々の母と大彦の母は同じだが、武埴安の母は異なる。そのことも、大彦が御真木を大王に推した理由であった。
そのやり方、根回しは随分汚いものであったと聞く。
武勇一辺倒であった武埴安王は太刀打ち叶わず、河内の国へに飛ばされたのだという。

幼い頃から亜理礎はその話を父母やその周りの者から、嫌というほど聞かされて育った。
本来、大王の地位にいるのは自分なのだと、武埴安は思っている。
亜理礎も、そう思って育ってきた。
いつか父の片腕として戦に立ち、御真木の大王から、大王の座を奪う。
その為に、女ながらに体を鍛え、戦いにも出、武勇で近隣に名を馳せるまでになったのだ。
しかしこの王宮、瑞籬宮(みずかきのみや)に招かれ、三輪山とその周りを見て以来、亜理礎の胸には小さな疑問が生じている。
果たして今、父武埴安王が御真木の大王と戦って勝てるのであろうかという疑問。
御真木の大王は、学問ばかりの大王で、武勇はからきしダメだという話を聞いていた。
そして疫病で、土地も民も痩せ、人は御真木の大王を恨んでいる、と。
が、目にした三輪の土地はあまりに美しく、そこに住む人は強かった。
山の民さえ出入りするほど、自由でもある。
豊かな国になる発展途上……そのような印象を強く受けた。
まだ見ぬ御真木の大王は、果たして聞いていた通りの弱い大王(おおきみ)なのだろうか。

「亜理礎殿、どうされたのです?」

刑部はぼーっと考えに耽っていた亜理礎の顔の前で手をヒラヒラさせた。

「亜理礎媛は、大層な武人であると聞いていたが、そうでもないかもね。この子、今、隙だらけだったよ。」

ナツメはハンと鼻で笑った。
亜理礎はハッと我に返ると、ナツメと刑部をジっと見た。
山の民と、……どこかの豪族の息子であろう。
いい布の服を着ている。
わざと少し崩した角髪(みずら)が美しい。
刑部……聞いたことのあるような、ないような名だ。

「本当に、ナツメはよく物を知っているね。いつも山の中にいるとは思えないよ。」

「なに言ってるんだい。知らないとは言わせないよ。あたしらが里におりてきて売るのは、なにも猪の肉やら鹿の肉だけじゃない。この大和の豪族達の情報もたんと売っている。戦は情報を持った者が勝つ。そうだろ?」

刑部の言葉にナツメはへへへーンと得意そうに言ったが、その言葉に亜理礎はゾッとした。

そう、戦において情報は重要だ。

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