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心恋
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心恋 6


 今、この勢いで―

(好きだって言ったら、困るんだろうな…でも)
 私は言葉を飲み込んで、ただ頷くしかできない。繋がれた左手を振りほどいたら、どうなるんだろう。そう考えると、足が動かなくなった。

 もちろん、繋がっている彼も引っ張られる形になって歩くのを止めた。

「どうした?具合悪い?」
 桧山さんの問い掛けに、私はゆっくりと首を横に振る。そして、躊躇いがちに口を開いた。

「…あのっ…」
 ―ピロロッ、ピロッ

 言い出した途端、機械音が鳴りだした。どうやら彼の携帯からだ。ごめん、と断って応対している。スッと手が解かれていった。


 なんだか興醒めした。
気づくと時計の針も交わりを消している。大通りの時計台の下では、カップルが手を繋いで歩いていった。

 私はそのカップルを羨望の眼差しでしばらく眺めていた。月明かりとネオンがやけに眩しく感じて、両手で顔を覆う。指の隙間からは太陽の光ではなく、私の涙がこぼれ落ちていった。
 電話は矢野からだった。
『あっ、桧山さん!来谷さんまだそこにいますか?』
「え、あぁ…いるけど。」
 そう答えながら、彼女を探す。こちらに背を向けて佇ずんでいた。
(そういや、さっき何か言いかけてたよな…)

『藤川が来谷さんの携帯見つけたらしくて、オレ今から届けますんで。今、どの辺りですか?』
 藤川は矢野の同期だ。
「えっと…大通りの時計台のそばかな?」
 辺りを見回して、こんなところにいたことに初めて気づく。
『わかりました!じゃ!』
「あっ、オイ!矢野っ!」
 ―ツー…ツー…
 オレの叫びも虚しく、電話は切れた。

(ずいぶんと一方的且つ積極的だな…まさか、な)
 自分の気持ちが揺れてるせいか、変な胸騒ぎがする。嫉妬にも似た感情。こんなオレは卑怯者だ。

「ユカコちゃん、携帯忘れてっただろ?今の矢野なんだけど、これから届けに来るらしいよ。」
 電話があったことを告げると、彼女はピクッと肩を震わせた。
「あと、さっき何か言いかけたよね?」
 さっきからオレが一方的に話し掛けている状態が続いている。彼女は何も答えない。ただ、立ちすくんでいるように見える。


「ユカコちゃん?」
 今日だけで何度呼び掛けたかわからない。でも、彼女の名前を呼ぶ度に、特別な何かが湧いてきていることは間違いない。


「………」
 声を押し殺して泣く、ということ。それがこんなに辛いなんて、思いもしなかった。今日だけで何回泣いたのだろう。こんなにも泣き虫だったのか、私は。

 彼に名前を呼ばれ、慌てて涙を拭う。
(矢野くんが携帯持ってきてくれるんだっけ。)
「ごめんなさい。私、店戻ります。途中で矢野くんとも会えると思うし…」
 目は充血してるに違いない。今日は本当に泣き過ぎてる。目蓋が腫れて痛い。

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