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心恋
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心恋 4

「8年目…ですね、もう」
私はそう言って、卵焼きをひとつ口に頬張る。
「さっき、しばらく仕事っぷり見てたんだ。オレずっと外出てたから、あんまり気にして見てなかった。」

 私が補佐になったのは、2年と半年前のことになる。人事異動で桧山さんが私のいる部署に入ってきた。
「そんなものですよね?」
私は平静を装いながら、あることをはたと思い出す。
(…まさか、あの時階段にいたりしてない…よね?)

 急にこんなこと言いだすなんて、そうとしか思えない。暗礁が立ちこめて私は箸を止めた。少々疑いの目を向け、彼を見つめる。
(…綺麗な箸の持ち方)
でも、結局は見惚れてしまっていた。その間も箸は止まることなく動いている。
「あ〜っ!!」
 私は突然大声を上げる。
彼が最後の卵焼きを口に入れたところだった。

 なんかもう…変なことは気にしないでおこう、変に勘ぐるのはやめとこう―
私は急に可笑しくなって、大声で笑っていた。


「食べ物の恨みはホント、恐ろしいな…」
 会社への帰り道、ボソッと呟かれる。結局、あの後は店中の客に見られ、早々と店を跡にしたのだ。
「すいません…」
 謝りながらもなんだかすっきりした気持ちに驚く。
「あっ!ひこうき雲。」
 空を指差して子供のように天を仰ぐと、桧山さんもつられて顔を上げていた。
私は逆に頭を元に戻し、隣を見つめる。精悍な横顔。
ずっと空を見つめながら、そのまま彼は言った。
「…辛い時は口にした方がいいよ、ユカコちゃん。」
 私は返す言葉がみつからなくて、こくんと頷く。
 そうだった。こういう人だったよね、桧山さん。
私はこのまま突っ走るところだったよ。そういう性格だから…もうそれで構わないと思ってた。

(また、涙出そう…)
 誕生日にこんな天気のいい公園で、しかも大好きな人と一緒なんだもん。ブレーキは利かない。
「…ひこうき…雲」
 私はまた小さく呟いて、涙がこぼれないよう、しっかり上を向いた。空は涙が滲んで、あんまり見えなかったけど、空の青さが目蓋にしっかりと焼き付いた。


『桧山さ〜ん!!聞いてますか〜?』
 彼女の通る声がマイクを通して更に大きく響く。
(さっき泣いたカラス…)
 オレは遠慮がちに手を振りながら、昼間のことを思い出す。空を見上げた彼女の瞳には涙が辛うじて留まっている状態だった。

 今日は営業部内の久しぶりの飲み会。そして、今はその2次会のカラオケ。

(ユカコちゃん、マイク持つと離さないんだった…)

 オレは彼女の気持ちに、今日ようやく気づいた。
いつもの彼女からは想像できないか細い声でオレの名前を呼んでいた。小さくても声は心に響いてきた。だからこそ正直戸惑ってる。

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