心恋 24
ひとりで勝手に落ち込んで、それが悪いほうに思考を引っ張って、そしてまた落ち込むことになる。
ああダメだ、と頭でぼんやり思っても、心はちっともおとなしくならない。
もっとも、そんな簡単に抑えられるような気持ちだったら、こうして悩みはしないはずだけど。
この心は単純で、単純だからとても強い。どうしようもないほど強いそれは、そのせいでどうしたら良いか解らないほど複雑で。
そんな心に浮かぶ言葉は疑問ばかり。抑える理性とは矛盾ばかり。
想いというのはなんて面倒なんだろう。
何度も頭を過ぎる想いや葛藤を振り払い、数えきれない程のため息をつきながらも、黙々と目の前の仕事を片付けてゆく。
集中出来てくると、周りの騒がしさも彼女の猫撫で声も耳に入って来なくなった。
「はぁぁ〜」
本日最大級のため息。
山積みだった仕事も、ようやくあとひとつにまで片付いた。
時計を見ると既に定時を20分程回っているけれど、この仕事は今日中に片付けてしまわければならない。
目頭を“ぎゅう〜”っと指圧しながら少し目を休める。
「お疲れ様。終わりそう?」
後ろから、低くて優しい響きを持った声がする。
「桧山さん…。あとこれだけです。」
手元の書類をヒラヒラさせて見せた。
「あと少しだね。これから新庄さんの歓迎会だって、藤川が張り切ってたよ。」
彼の口から彼女の名前が出たので、一瞬顔が強張ってしまった。
「そう…ですか。桧山さんは行くんですか?」
まだ顔は強張っているだろうか。私はそう思いながらも努めて普通に言った。
「一応ね。顔くらいは出しておくつもりだよ。ユカコちゃんは残業してるから、って伝えておこうか?」
言葉には出さないけれど、来なくても大丈夫だよ、と気を遣ってくれているのがわかる。
それだけで、強張った顔と心が解れる気がした。なんだか今日は桧山さんに助けられてばっかりだ。
(逃げる、なんて私らしくないよね)
新庄さんからいつまでも逃げるわけには行かない。桧山さんにも矢野くんにも相当気を遣わせてしまっている。
「桧山さん、これ終わったら駆けつけるって、伝えといてください」
終わった仕事の数々をファイルしながら、凛とした姿勢で伝える。
「了解。待ってるよ」
桧山さんは私の決意を感じ取ってくれたのか、柔らかい笑顔で答えてくれた。