心恋 18
思い出すのは涙で滲んだ青い空、その下で交わした桧山さんとの会話。
あのときの桧山さんの横顔も、飛行機雲も、そして聞いた言葉も、全部が胸の内に幾重にも積み重なっていく。
今はそのどれもが、ささくれ立った私の心をかき乱して、涙腺がゆるむ。
だけど、はっとした。
矢野くんは今、他でもない私のことを心配してくれているのに。掛け値なしに真剣に、心からの心配。
なのに私は、ここにはいない彼を思った。思ってしまった。
なんて、不誠実。
だから矢野くんの気持ちも、今は重い。
そっと、添えられた手を離す
矢野くんの気持ちは痛い程よく解る。私だって片思いなんだ
だけど、桧山さんへの想いは……そんなに簡単に無くなるのなら、きっとこんなに辛くなる事だって無いのだろう。
「心配させて、ごめんなさい。でも、大丈夫。」
『−−−でも、大丈夫。』
そう言って笑った彼女の笑顔はとても弱々しく、今にも消えてしまいそうだった。
きっと、こんなに彼女が泣き腫らした目をしているのは、あの人と関係しているんだろう。
抱きしめて力ずくで自分のものにできるならそうしている。
でも、そんな無理矢理に手に入れた彼女に、一体何の価値があるのか?
ユカコさんの魅力は、誰からも影響されない自然な美しさを持っているからだ。
そうして無理に手折った野花のその結末は、多分枯れて終わるだけ。
その事を知っているだけに、俺は余計に辛い。
でも、言わずには居られなかった。
馬鹿だったからだ。
彼女がそれで、「どう思うか」何て。考えもしなかった。
無神経すぎた。
「俺じゃ、駄目なんですか?」
俺の拳は震えていた。
−−−正直、矢野くんにランチに誘われた時から覚悟はしていた展開だった。
だけど…
「矢野くん……」
次に出す言葉が見つからない
気まずい沈黙。
店内の喧騒から私達の空間だけが切り取られた錯覚に陥る。
きっと、私もこんな風に見えていたのかな
自分を保てなくなるのって……。
今度は私から矢野くんの震える手を握る
「……矢野くん、矢野くんの手って大きいね。それに暖かい」
彼の思い詰めた表情が少し和らいで、困惑した顔になる
「守られてるみたいで安心できるよ……ありがとう」
矢野くんは暫くじっと繋がれた手を見ていたが、やがてガックリと肩の力が抜けた。
「はぁーー…。すみません、俺ってダメだなぁ〜」
(……?)
「なんか、俺の方が逆に元気付けられちゃって…」
エヘヘ
と頭をかく矢野くん。
その姿が面白くて、思わず吹出してしまった。
「ごめっ…!なんだか可笑しくて」
一度笑うと何故だか止まらなくなった。最近、泣いてばっかりだったから反動が来たのかも
呆気にとられてた矢野くんも、そんな私に安心したみたいで
「良かった、笑ってくれて」
そう言って私の手の甲にキスをした