心恋 15
やがて車は私の家に近い場所に停められた。それに合わせて私は車から降りる。
「それじゃこれで行くけど、明日は元気なユカコちゃんを見せてくれよ。
俺は明るい、いつものユカコちゃんが好きなんだからさ」
そんな言葉をかけたあと桧山さんは車と共に私の視界から消えていった。
「そっか。私は結局、桧山さんには女として見られてなかった、て、そう言う事なんだ。」
そう、桧山さんにとっては私なんか、妹ぐらいにしか思われてなかった。
私の瞳からは後から後から涙が溢れ出してきた。
(さよなら、桧山さん)
部屋に戻るとそのままベッドに潜り込む。
お気に入りのブランケットにくるまっても、涙は止まらなかった。
桧山さん……
ユカコちゃんを家の近くで降ろした後、俺の頭の中は彼女の事でいっぱいだった。
彼女が精一杯、無理しているのがわかったから、思わず抱きしめてしまった。
いや……抱きしめずにはいられなかったんだ。
くそっ!何やってるんだ俺は!
彼女は別れ際、どんな顔をしていた?とてもじゃないが、彼女の顔を直視できなかった…。
俺は卑怯だ。彼女の気持ちを知っていながら…。
ズキズキ
頭…痛い。泣き過ぎて目も痛い。
だけどそれ以上に、心が…イタイ
目をつむると、桧山さんにまだ抱きしめられている感覚に陥る。
そしてアノ言葉も。
『−−俺達、仲間じゃないか−−』
本当に、泣き過ぎ。このまま体中の水分が涙になって出ていっちゃうのかも……それでもいいや。勝手に期待して、私バカみたい…
笑うしかないね、もう。
「何やってんだかなぁ…私。最初からわかってた事じゃないか。」
そう、わかってたんだ。私はただの同僚だって事も、桧山さんに奥さんがいる事も……
「昨日、倒れ…たって…」
私は今、ちょうど矢野くんに会ったところだ。昨日のこと、たぶん藤川くんに聞いて来たのだろう。会議室に向かう私目がけて、廊下を走ってきた。
「風邪かなあ。自己管理がなってないよ、ホント」
少し笑って答える。矢野くんはようやく息が落ち着いたらしく、深呼吸をして、また話し始めた。
「ああ、なんでそんな時にオレってば出張してんだよ〜!…ホントに大丈夫?」
私は胸に抱えた資料をぎゅっと握りしめた。
「大丈夫だよ、昨日いっぱい寝たし。」
嘘をつくのが精一杯で、じゃあねと言い残して、会議室に向かった。
「…来週頭には資料を提出で、よかったかな?」
(私、どうしたんだろ。こんなに弱かった?こんなに脆かった?)
「来谷さん?」
「…あっ、はい!」
会議中に考え事なんて私らしくない。でも……。
「平気か?体調悪いか?」
部長が心配そうにこちらを伺う。同時にみんなもこちらを見る。
「いえ、平気です。来週頭には提出しますので」
平静を装って、なんとかその場を切り抜けたけど、私は脱け殻みたいに会議用のイスに座っているだけだった。