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心恋
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心恋 14



「こっち!」
 私は地下の駐車場で、呼ばれる方に出向き、助手席に回りこんでドアを開ける。そして深く座り込んで、シートベルトをした。
「社用車ですけど」
「なんでもいいです!」
 桧山さんは少し微笑むと車を発進させた。

「これ乗るの初めてですよ。外出は電車だし。」
 私は、この狭い車内にふたりきりで緊張している。
長い直線コースに差しかかっても、私はずっと前方だけを見つめていた。

「良くなった?」
「え?」
 私は車の進む先しか見えていなかった。
「体調。朝からおかしいとは思ってたんだ。もっと早くきづくべきだったよ」
桧山さんは前方を見据えながら、面目無さそうに謝ってきた。
「そんな!桧山さんのせいじゃありませんよ。体調管理をしっかりしていなかった私の責任なんですから」

私はつい声を荒げてしまってから、ムキになってしまった自分自身が恥ずかしくなり、俯く事しか出来なくなった。
(私って、本当に子供だわ)

そして桧山さんの溜め息をつく気配が耳をうつ。
(桧山さんにも呆れられた!?)
私は自分が情けなくて、泣きたくなった。
「まったく。どこまでも真面目なんだから。もっと俺たちを信用してくれてもいいと思うけどな」
「……。」

私は何も言えなくなってしまった。桧山さんを、皆を信用してない訳じゃない。
ただ、迷惑をかけたくなかっただけ。だけど結局、皆に心配かけてしまって、桧山さんの優しい言葉がよけいに胸に響いた気がした。
も、ダメ。泣く。

信号が赤になり、車が止まる。

ギッ…

サイドブレーキを引き、ギアをパーキングに入れる音。次の瞬間

「ユカコ、辛い時は口に出せって言っただろ?」
その声を聞いたのは桧山さんの胸の中だった。
桧山さんは私の顔を両手で挟むと涙を拭ってくれた。指輪の感触と一緒に。
「どうして、こんな事……。
桧山さんに迷惑、かけないように、しようって、思ってるのに………」
すごく嬉しい。でも、死にたいくらい辛い。
「今までずっと、我慢、してきたのに、だめなんだって、言い聞かせてきたのに……。
これ以上、優しく、なんかされたら……」

私はそれ以上続ける事はできなかった。
それから後の言葉は、絶対に言ってはいけない言葉。

破滅に向かう言葉だから。

でも、桧山さんの腕の中は、負けそうになるくらいに優しく包み込んで来る。

まるで悪魔の誘惑。



信号が、青に変わった。


ブロロロ…

車は再び走り出す。何事も無かったかのような桧山さん。
真っ直ぐ前を見て、ハンドルを握っている。
私の心臓だけが煩く響く。

「ユカコちゃん、俺達、同じ会社で同じ部所で働く仲間じゃないか。辛かったら助け合おうな。」

それは『仲間』としての言葉に受け取れた。

わからない−−。桧山さんの心が。
私は、どうするべきなのか。桧山さんはどう思っているのか…。

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