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遠い夏の日の思い出
恋愛リレー小説 - 大人

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遠い夏の日の思い出 10


「私…ごっ…ごめんなさいっ!」
「彩っ!待て…」
私は慌ててその場を立ち去った。

何?…何なの?…見たくなかった…見なければ良かった…

私は泣きながらひたすら走る。
あの時、涼ちゃんは私の方へ来ようとしていた。
なのにあの人は、涼ちゃんの腕を掴んだまま離そうとはしなかったのだ。

私はサンダルを乱暴に脱ぐと家の階段を駆け登り、そのままドサッとベットに倒れこんで布団に顔を埋めながら
『こんなことになるなら…涼ちゃん家なんか行かなければよかった…』
と後から後から溢れ出る涙を押さえられずにいた。

暫く泣き続けた彩はボーッとしていた。
『私ってば最悪…あれじゃあ、バレバレじゃないっ』自分で自分に腹が立つ。

そんな時、彩の携帯が鳴るが相手を確認するとまた閉じてしまう。
涼ちゃんからだ。
私のことなんか放っておいてくれればいいのに…。


彩は何だか嫌になり外に飛び出した。何処に行くでもなくペタペタとサンダルの音を聞きながらただひたすら歩く。空も海も辺りの景色が夕日のせいでオレンジ色に染まり初める。
いつもの場所だと涼ちゃんが来るかもしれないと、そこは避けて砂浜にたどり着いた。
砂浜に座り、一人波の音を聞きながら海を眺めていた。
涼ちゃんと沙羅さんは付き合ってたんだもん。キスくらいするよ…ね…。
「はぁーっ、バカみたい…」
小さく呟く…
「わぁぁぁーーっ!」
今度は叫びながら海に向かって走り、足元だけ波に浸かった。
彩は一人、波を蹴ってみたり掌で掬い上げたりと戯れていた。
一人で遊ぶのも飽きてまたボーッとしていた。夕日が沈みかけているのに風はまだ暖かく彩の頬を吹き抜ける。
濡れていた足元も乾きそろそろ帰ろうと立ち上がり振り向いた彩の視線の先に見慣れた姿がこちらを見つめていた。
「涼ちゃ…」
彩と視線が重なるその人は、正しく涼ちゃんだった。「はぁはぁっ…彩…」
涼ちゃんは肩を上下に揺らし、額にはうっすらと汗を滲ませて呼びかける。
「どっ…どーして…」
「どーしてって…急に走って逃げてくし、携帯にも出ないし、家にも居ない、何処にも居ない…心配するだろっ!」
そんな涼ちゃんの言葉に彩は俯いてしまう。
「……なんか…」
「へっ?なに?」
「私なんか放っておけばいいでしょ?せっかく…沙羅さんと戻れたのに…」
そんな彩の言葉に涼ちゃんは眉間に皺を寄せ、険しい顔つきになる…。
「俺と沙羅はもう何年も前に終わってるんだ。自分から振っといて…今更戻れる訳ないだろっ!」
今まで見たことのないくらいに険しい表情と強い口調で涼ちゃんは彩にぶつかってきた。
「ごっ…ごめんなさい…そっ…そーだよね…私は二人の間のことなんてぜんぜん知らないのに…」
彩が俯いたまま謝ると、涼ちゃんはふと我にかえり彩にぶつけてしまった事にはっとする…
「ごめんな…彩は何も悪くないのに俺…」
と彩をすまなそうに覗きこむ涼ちゃんに彩はふるふると首を横に振り、顔を上げてなんとか笑顔を作って見せた。

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