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遠い夏の日の思い出
恋愛リレー小説 - 大人

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遠い夏の日の思い出 1

私は南の小さな島に着いた…。
そう、ここは私が生まれ育った島。
私は、二十歳と同時に東京の会社に就職する為にこの島を出た。
あれからもう五年…
東京の暮らしに嫌気がさした私はまたこの島に戻ってきたのだ。
私の名前は、君島 彩 (きみしま あや)25歳、平凡なOLを辞めて地元に戻ってきました…。

暖かい風が私の頬をくすぐる…。
人も景色も何も変わらない…。
みんな温かく、優しく私を迎えてくれた。
本当に何も変わっていない…昔のままだった。

私はいつもの場所に向かう…誰も知らない秘密の場所…あの人と私だけの…。

私はあの場所までのみちのりを歩く…
途中で行き交う人と「こんにちは」と挨拶をする。
私が彩だと気付いて驚く人も居る。
そう、私は島では東京の人になっていたはずなのだから…。
歩きながら色んな事を思い出していた。
島での事ばかりでなく、東京での五年間…。
私は、島を出て東京ではかなり楽しんでいた。
親元から離れた開放感と憧れだった都会での暮らし…なにもかも新鮮で面白かったのだ。
しかし、それも最初の一年目だけで後は落ちて行くだけだった……。

何人もの人と付き合い、別れを繰り返した。
でも、どの人も何かが違うと感じた…私が田舎者だからだろうか……。
きっと、あの人がずっと私の心の中に住み着いていたからだ。
東京で最後に付き合った人は、妻子のある会社の上司…そう、私は不倫していたのだ。
もう、うんざりだった。
ただ寂しさを埋めるだけの関係で相手の家庭を壊す気なんか全くなく、誰か傍に居てほしかっただけ…ただそれだけ…。

私は青い空と暖かな陽射しの中、あの場所までの一本道を歩きながら懐かしい香りを感じていた…。

あの場所まであと少し…
野道を歩き、小さな林を抜けると小高かい丘に出て目の前一面にコバルトブルーの海が飛び込んで来た…。私は大きく伸びをして、懐かしい潮の香りと穏やかな波の音を楽しむ…

そう、何もかも昔のまま…
その場にバサッと倒れ込んでそっと目を綴じ、暫く風を感じていた。

すると、頭上から―ガサガサッと音がし私は慌てて顔をそちらに向けた…
「!!」
「?あれっ…彩か?」
懐かしい声…
ずっと聞きたかった声…

私と目が合い立ち尽くしているその人は…正しく昔のままの彼だった…。

彼の名は、郡司 涼汰(ぐんじ りょうた)26歳

幼い頃からいつも一緒にいた…。
私が虐められているといつも助けてくれた彼…。
そんな彼は幼い頃の私の中では正義の味方だった…。
その涼汰が驚いた様子で暫く私を見つめていた。
「帰ってきちゃった…」
とおどけて笑って見せる私に涼汰は
「お帰り…」
と優しく微笑んだ…。

涼汰のその優しい笑顔…あの頃のままだ…
私だけのものにしたかった涼汰の笑顔が今…私に向けられている…

そんな二人の間にそよそよと暖かくて優しい風が吹き抜けていた…。

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