PiPi's World 投稿小説

遠い夏の日の思い出
恋愛リレー小説 - 大人

の最初へ
 6
 8
の最後へ

遠い夏の日の思い出 8

「君じゃないと駄目なんだ。君が居なくなってはじめて気が付いた…」
「何言ってるの?貴方には奥さんも子供もいるじゃない!貴方の家庭を壊す気なんてさらさらないのよっ」彼の顔がみるみる恐ろしくなる。
「俺は何もかも捨てても君と居たいんだよ彩…」
「勝手なこと言わないで…私は傍に居てくれるなら誰でも良かった、貴方じゃなくても誰でも…」
そう話してる間にも必死に抵抗して逃げようと試みる。

『痛い…恐い…助けて…』
やっぱり悪いことはするものじゃない。きっと今までのつけがまわってきたに違いない…。

「誰でも…俺じゃなくても良かったて言うのか!俺はこんなにも君が…必要だというのに…」
すると彼は力が抜けた様にスルッと彩の腕から手を離した。彩はその隙に彼と距離をとる。

彼は鞄からガサガサと何やら紙きれを取り出す。
「これも必要なくなってしまった…」
それは彼のサインと印が押された離婚届けだった。
「そっ、それ…そこまで考えていたの?」
「あぁ…何もかも捨てて、君と一からやり直そうと思ってね。でも、それも俺の独りよがりだったわけだ…」
彼は離婚届けをビリビリと破きながら彩を見つめる。

「私…ごめ…なさい…。好きだった人を忘れたくて…誰かと居れば…その内忘れられるんじゃないかって…でも…その逆だったの」
彩は瞳いっぱいに溜めていた涙を零しながら続けた。「誰かといればいる程、比べてしまって…結局、気持ちを膨らませるだけだったの…本当にごめんなさい…」
彩は両手で顔を覆いながら頭を下げた。
「今も忘れられないのか?」
彩はコクッと小さく頷いた。すると彼は何も言わずにトボトボと歩き初めた。
「あの…」
「俺も目が覚めたよ…これからは家族を大切にしてくよ。悪かったなこんなとこまで押しかけて…」
それだけ告げると彼は立ち去って行った。彩はただただそんな彼の後ろ姿をぼやけた視界の中で見つめていた。
彩は胸が痛んだ。もう少しで彼だけでなく、彼の家族まで傷つけるところだったのだから。いや、もう傷つけているのかもしれない。彩は痛んだ胸を押さえつつ、ひたすら心の中で謝ることしかできない自分が情けなく、悔しくて後悔し溢れ出した涙を止められずにその場にへたり込む。

もう誰も傷つけたくない…傷つけない…

そんなことを思いながら、気が付くといつもの秘密の場所に立っていた。

どうやって歩いてきたのだろう…。それすらわからず、今だにぼやけた視界は彩が目にする景色を邪魔していた。
「やっぱ、ここにいたか…」
彩が声のする方へ顔を向けると、そこには優しく微笑む涼ちゃんの姿があった。「涼ちゃ…」
今にも飛びつきたい思いを堪えながらやっと彩は声を発する。
彩の顔を見ても涼ちゃんは何も言わずにただ隣りにいる。そう、ただそれだけ…それだけなのだけど、今の彩にはそれだけで十分だった。
涼ちゃんが隣りにいるだけでホッと安心できて満たされてしまう。
心にかかった霧がパッと晴れわたる…そんな感じ。

SNSでこの小説を紹介

大人の他のリレー小説

こちらから小説を探す