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遠い夏の日の思い出
恋愛リレー小説 - 大人

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遠い夏の日の思い出 7

「用って…別に…」
「別にって…用もないのに呼びかけて追い掛けてきたの?」
「彩が逃げるから…」

もぉ!何なのっ!何なのよっ!

心の中の私の叫びは当然、涼ちゃんに届く筈がなく…私は大きく溜め息をつく。「はぁ〜っ、涼ちゃん…仕事サボるとおじさんに怒られるよ!」
「あっ、ヤバッ…そーだった!っじゃーな彩…」

一体何だったのだろう…

私はまた歩きだす。
家に帰ると私もお母さんに「遅い」と怒られてしまった。

それもこれも涼ちゃんのせいだ。私なんかに構うから…。放って置いてほしい。私なんか…私なんか…。

そんなことを考えながら私は物置から小さなビニールプールを取り出すと、庭の片隅にある水道の蛇口を捻り水をはる。

水が溜まったビニールプールを縁側の方まで運ぶと、そこに腰掛けてサンダルをぬぐとパシャパシャと足を浸す。
「ひゃっ、気持ちいい〜っ」
先程の疲れがサーッと引いていく感触を楽しんでいた。
時々、バシャッとビニールプールから水を蹴り上げて先にある花壇の花に飛ばしてみる。
「彩、水遊びもいいけど…終わったら片付けてね」
と背後からお母さんの声がした。

私は「はーい」と返事をしながらお母さんの方へ振り返る。そんなお母さんの口元が微笑んでいることに気付き嬉しくなる。

―リンリーンッ

優しい風に風鈴が揺れていた。
「暑〜い…」
初夏の強い陽射しを浴びながら私は水から足を出すと、タオルで足を拭って少し軽くなった足を確かめながらまたサンダルを履く。
水をはったビニールプールを片付けると私はまたいつもの場所に向かった。

今日は準備万端、私はゴザを敷いて(今時…)そのうえに寝転がる。
あっ、そうそう日焼け止めクリームを露出している部分に念入りに塗った。
そして再び寝転ぶ。
青い空、流れる雲を眺めながら身体いっぱいに太陽の日差しを浴びて元気を溜め込む。
東京での五年間をなかったことにしてしまいたい程、今が…この瞬間が…愛しくてたまらない。
あの頃はまだ幼くてこんな毎日がつまらなくて逃げたかった。この島から…両親から…全てから…。
ゆっくり流れる毎日が、ありふれたいつもの毎日がこんなにも幸せなことに何故もっと早く気付かなかったのだろう。

『バカなあたし…』

額の汗が流れるのを感じた。私が身体を起こしたからだ。
本当はまだここに居たいのだけれど…。

私は家に戻った。
すると、家の前にこの島には不似合いなスーツ姿でキョロキョロしている男性がいた。
不思議に思いよく見るとあの不倫相手だった。こちらに気付くなり彼は私に歩み寄り、私の腕を思いきり掴んだ。
「痛っ…何するのよ!離してっ!」
「彩、随分捜したぞ!帰るんだ」
「ここが私の家よ…私の帰る所はここだけなの」
そんな反論しても男の力にかなうはずがなく、容赦なく引っ張られ痛みと恐怖で顔が歪む。

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