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遠い夏の日の思い出
恋愛リレー小説 - 大人

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遠い夏の日の思い出 5


私は立ち止まったまま、その場を動けずにいた。このまま、涼ちゃんの後ろに跨がると家に帰ることになってしまう…涼ちゃんと離れることになってしまう…
だから、動けない…動きたくない…
「彩…どーした?」
涼ちゃんが心配そうに私の顔を覗き込むから、私はとっさに俯いてしまった。

どっ…どーしよぅ…とっさに俯いちゃったけど、このままじゃ涼ちゃんを困らせちゃう…

そして私がパッと顔を上げるとそこには、いつものように優しく微笑む涼ちゃんの顔があった。
「まだ帰りたくない?」
私が小さくコクッと頷くと涼ちゃんは、私の頭をクシャクシャッとして
「しょーがないなっ!」
と優しく微笑みクイックイッと指先を曲げて合図している…
『座れってこと?かな…』
そして、私が後ろに座ると涼ちゃんは自転車をこぎはじめた。
心地良い夜風が吹きつけて暗闇を駆け抜けて行く…

東京では夜中でも街中はお店の明かりやネオンの明かりで暗い所なんかほとんどなかった。
この島は、夜になればほとんどのお店が閉まり、道端に立っている電柱の明かりだけがちらほらその足元を照らしていてそれ以外は真っ暗闇なのだ。
涼ちゃんはどんどんペダルをこいでスピードを上げて行く…そう、まるで私の嫌な思い出を振り払うかのように…。
私はギュッと涼ちゃんにしがみついた。

このまま時間がとまればいいのに……

「涼ちゃん…私ね…」
「えっ?なにーっ?!」
「りょ…涼ちゃんて…好きな人かいるの?」
「なっ、なんだよ!急に…」
私は思いっ切り勇気を振り絞ってもそんな言葉しか出て来なかった。
「だってぇ…」
「そんなのどーだっていいだろっ!」
なんだかハッキリしない答えが気になって仕方がなかった…。

やっぱり…好きな人くらい居るよね…そーだよね…

私の胸の奥がキュッとなった。
私は込み上げでくる熱いものを堪えながら
「けちーっ!」
と答えるのがやっとだった…。


そして、自転車が私の家の前で停まると
「姫…着きましたよ」
涼ちゃんがおどけて言う…
私は自転車からヒョイッと降りて涼ちゃんを見上げると、少し背伸びをしながら涼ちゃんの頬に軽くキスをして
「ありがと涼ちゃん…おやすみなさい!」
と走り去った。
我ながら暗闇に任せて少し大胆な事をしてしまった。まだ、顔が焼ける様に熱く心臓がバクバクしている…
涼ちゃんは突然の出来事にただ呆然と、右頬を掌で触りながら私の後ろ姿を見つめていた。

これで…少しは私のこと…意識してくれるかな…

そんな期待を胸に私は自分の部屋に戻るとそのままバサッとベットに倒れこんだ…。
涼ちゃんの頬は温かくて…少しゴツッとしていた…。



―ふと目覚めると窓から朝の光りが眩しいほどに差し込んで、私の眠りを妨げている。

あれから寝ちゃったんだ…
私は暫く天井を見つめ、昨日のことを思い出すと一人で顔を赤らめていた。

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