遠い夏の日の思い出 4
―ドキドキ…
きっと…私だけが心臓の音を高鳴らせているに違いない…涼ちゃんは…私の事…どう思っているんだろう…
自転車の揺れに合わせるかの様に私の心臓の音もどんどん早くなっていた…
私はギュッと涼ちゃんにしがみついてる手に力をこめてピタッと背中に顔を埋めた。
「あったか〜い」
涼ちゃんの背中はポカポカ温かくて心地いい…
「何っ!?なんか言ったか?」
「ううん、なんでもな〜い」
このまま…時間が止まればいいのに…
と心の中で呟く私の頬を温かい夜風が吹きぬけていた……。
「そー言えば…昔はよく…こうやってこっそり夜抜け出してあちこち行ったよね…」
「あぁ…昔は軽かったけど今は…」
「なぁーに?それ…重いって言いたいの?」
「う゛…いや…」
「クスッ、気にしないで!本当に重いと思うし…それと…昼間は家まで担いでくれたんでしょ?ありがと…」
「うん…」
暫く走ると砂浜に着いた。「彩、着いたよ!」
「あっ…ここ…」
ここは、よく二人で来た砂浜だった…。
―ザザーンッ
波が打ち寄せる音だけが聞こえていた。
砂浜に座り暗闇の中で海を見つめる…昼間はあんなに綺麗で真っ青な海が、夜は真っ暗で波の音しか聞こえない。
なんだか、吸い込まれそうで恐い…
すると、涼ちゃんが口を開いた
「彩…東京でなんかあったか?」
「えっ?なっ…なんで?」「なんか…いつもの彩じゃないっていうか…うまく言えねーけど…飲み方が尋常じゃなかったし…」
参ったなぁ…涼ちゃんには何もかもお見通しかな…
「エヘッ、なーんだ…バレバレだね…もしかして…それでここに?」
「まぁーな…」
どうして涼ちゃんは、そんなに優しいの?
私…そんなの困るよ…
「涼…ちゃ…」
私は気付いたら泣いていた。止めようと思っても止められなくて…
そんな私の頭を涼ちゃんは優しく撫でてくれていた。「彩は昔っから色んなこと溜め込むからな…誰か聞いてやる人がいないと…」
「涼ちゃん、ありがと…」
涼ちゃんは誰にでも優しいから…私以外にも涼ちゃんに優しくされて参ってる人…いるのかな…。
私は思いっ切り泣いてスッキリした。
涼ちゃんはいつも深くは聞いてこない…ただ、横にいてくれるだけで私は心を落ち着かせる事ができていた気がするのだ…。
「少しは落ち着いたか?」「うん…」
小さく頷く私の頭を涼ちゃんは、優しくポンッポンッと掌を置くと
「そろそろ…帰ろうか?」と立ち上がった。
(まっ…待ってよ!私…まだ涼ちゃんといたいのに…)
そんな想いを吐き出せずに私も立ち上がる…。
優しい波の音だけが二人の耳に響いていた。
「そーいえば彩、仕事どーするんだ?」
「えっ?」
「こっちでもう見つけたのか?」
「少しの間だけ何もしないで休もうかと思ってるの」「そっか…」
涼ちゃんはそう言うと自転車に跨がった…。