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遠い夏の日の思い出
恋愛リレー小説 - 大人

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遠い夏の日の思い出 12

「あら、彩…さん?」
その声に彩の肩はビクッとする。
恐る恐る振り返ってみると……沙羅が立っていた。

『なんでわかるかなぁ―…』

彩は心の中で溜め息をつく…。
そんな彩の視界にもう一つ驚きが待っていた。
なんと沙羅の隣りには涼ちゃんが並んで立っていたのだ。
「なっ…ん…で…」
彩の顔が凍り付く。
「彩…あの…」
言いかける涼ちゃんに背を向け彩は走り出した。
涼ちゃんや両親が呼びとめる中、彩は走りにくい浴衣姿で走る。

『戻れない…戻らないんじゃなかったの?何なの…』
「やっぱり…来なきゃ良かった…」
彩は下駄のせいで足の指が痛くなりしゃがみ込んだ。もう既に涙で濡れている頬を熱いものがどんどん零れていく。
「痛っ…」
指先を摩りながら唇を噛んでひっしに声を押し殺していた。
「彩っ!」
聞き覚えのある声に振り向くと、涼ちゃんが息を切らしながらこちらを見つめている。
「りょっ……どーし…」
うまく言葉にならない声を彩は振り絞った。
「浴衣のクセにはえーんだもんっ…」
といつもの様に涼ちゃんは優しく微笑む。
しかし、彩はしゃがんだまま背中を向けて膝に顔を埋めていた。
すると涼ちゃんは彩の向かい側にしゃがみ込んで顔を覗きこんできた。
「どーした?彩…?」

『もぅ放っておいてよ』
と心の中で呟きながら
「なんでもない…」
とやっと声を絞り出す。
「お前…なんか誤解してない?」
「なっ、別に…涼ちゃんが誰と居ようと私には関係ないし…」
なんて心にもないことをぶつけてしまう。本当はそんなことを言いたいんじゃないのに…。
「沙羅とはたまたま偶然会ったんだ。お前には話ししてたから勘違いしたかと思ってさ」
「ふーん…そーなんだぁ?」
業とらしく返事を返したものの内心ホッした。
しかし、今のこんな顔をみせるわけにもいかずそのまま膝に顔を埋めて話していた。そんな彩を見て涼ちゃんは心配している様子…。
足が痛いのも事実で立ち上がることができないでいる彩に涼ちゃんは急にクルッと背中を向けた。
「ほらっ」
と涼ちゃんは彩をおんぶするつもりらしい。
「いっ…いいよ!重いから…」
「いいから乗れよ!足痛いんだろ」

『涼ちゃん、気付いてたんだ…』

「重いからね」と付け足して彩は恥ずかしそうに涼ちゃんに身を預ける。
「俺をバカにすんなよ」
と涼ちゃんはヒョイッと立ち上がってみせた。
『そー言えば…小学生の頃もよく私が転んだり、泣いたりしてたら涼ちゃんにおんぶしてもらったっけ…』彩は恥ずかしそうに涼ちゃんの肩につかまりながら思い出していた。
「やっぱ、小学校の頃より重いなぁ」
「もぅ、当たり前でしょ」と頬を膨らませている彩。
このままずっと居たいな…
彩は思わず零れ落ちてしまいそうな言葉を飲みこんだ。涼ちゃんの温かい背中に顔を埋めて堪える。
「あの頃は俺たち…一緒に居るのが当たり前だったよな…」
「うん…」
そんな涼ちゃんの問い掛けに彩は小さく頷いた。

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