素直になれたら… 5
「あ…あのっ…」
「あれ?君は確か…」
あたしが謝ろうと口を開いた瞬間、男の後ろからヒョコッと友人らしき人物が顔を出した…。その人はあたしを見るなり、ニカッと微笑む。
「君、名前は?」
「真崎…栞です。」
「そっかぁ栞ちゃんかぁ…よろしくね!」
その人はあたしの手を勝手に取り握手をする。
てゆーか…誰、この人。こんな人、いたっけ?
「柊也を張り飛ばした子なんて、初めて見たよ。」
騒がしい人…。
あまりにも賑やかなこの人に気圧され気味なあたし…。
「俺、塚原 毅(つかはら たけし)。で、こいつが荻野 柊也(おぎの しゅうや)。よろしくね!」
「おい…。」
この人…荻野君は塚原君を呆れ顔で見ている。
何だか塚原君の登場で謝るタイミングをすっかり逃したあたしは、再び気まずい雰囲気のまま午後からの講義を受ける羽目となった…。
前を向くと、荻野君の背中…そして、少し離れた席から送られる塚原君の視線……。
…あれ、絶対何か起こるの期待してる目よね。
はぁ……何だか先が思いやられるなぁ。
塚原くんの期待に応えるコトもなく、その日の講義は終了した。
何となく座った席だから明日は違う場所に座ろう。そんなコトを考えながらあたしは帰り支度をする。
何だか凄く疲れた……
こんな日は早く帰って、家でのんびりしよう。と思ってたんだけど、それを打ち破る様に満面の笑みのまま塚原くんが駆け寄ってきた。
「ねぇねぇ真崎さん。この後暇?俺達、サークル回りするんだけど一緒に行かない?」
この人ホントに元気よね。思わず溜息が零れた。
呆れた顔が二人、一人はあたし。もう一人は荻野って奴だった。
「毅……お前、勝手に決めんなよ。」
と荻野は露骨に嫌な顔をする。何よ、謝らないあたしも悪いけど、コイツ結構根に持つタイプなワケ?
こんな奴は放っといて、あたしは塚原くんに向かってニッコリと微笑んだ。
「せっかくのお誘いですけど、奈菜美と約束がありますからごめんなさい。」
あたしは社交辞令な台詞を唇に乗せる。塚原くんの誘いは嬉しいんだけど、アイツが一緒なのがツライ。
一言謝っちゃえば簡単なんだけど、一旦タイミングを失うとなかなか切り出しにくいのよね。
はぁ……って、また溜息が零れた。
「そう、残念だな……」
そんなあたしの心をよそに塚原くんは本当に悲しそうな顔を向けてくる。
うっ……
あたし、こういう顔に昔から弱いんだよね。
頼まれたら嫌とは言えないタイプ。
困ったなぁ……。
あたしはすっかりオロオロしてしまい、必死に塚原くんにかける言葉を選んでいた。
すると……
「もういいだろ?ご予定があるって言ってんだし、また暴力ふるわれたら堪んねぇよっ」
そう言って背中をこちらに向けて歩き出す荻野。