素直になれたら… 8
「あなたに、これ以上男らしくなって欲しくないからよ」
それが一番の理由かしら……と付け加えて彼女は楽しそうに微笑む。あたしは数秒間固まったまま、奈菜美を見つめていた。
「冗談はさておき、あたしは温泉巡り研究会ってサークルが気になるんだけど……」
「…………」
「冷え症改善に美肌効果なんて夢のようじゃない?」
「…………」
「いつまで固まってんのよ?これは栞の為でもあるのよ?ほら、そんな恐い顔しないで笑顔、笑顔」
ひくひくと顔を引き攣らせた後に、あたしは大きな溜息を零す。
「あなたの屈折した友情に感動を覚えるわ……」
一言だけ呟いて、うなだれた姿勢のままあたしの所属するサークルは無し崩し的に決まった。
新入生に配られるパンフには、ご丁寧に各サークルの部室の場所までが明記されていて、あたしと奈菜美は温泉巡り研究会なるサークルの部室へと向かう。
冷え症解消は女性にとって重要だけど、一、二泊の湯治で解決するとは思えない。まぁ、その辺がサークルたる所以なんだろうけど。
そんなこんなで数分後には、あたし達は部室の扉の前にいた。
多少、緊張した面持ちで扉に手を掛けた時……
「あれ?真崎さん?」
って呼び止められた。
今日が大学の初日で同じ学部の人達とも初顔合わせだし、同じ高校から来た奈菜美以外にあたしを知ってる人はほとんどいないはず……
違う、いるわよね二人ほど……
その事を思い出したあたしが、げんなりとした表情のまま声の方へと首を向けると、あなたの前世は犬?って言いたくなるぐらいに尻尾の代わりに満面の笑みで手をブンブンと振る塚原君と、これまた予想通りに苦虫を1ダース噛み潰したような顔の荻野がいた。