四葉のクローバー。 5
もうこれくらいのことでは腹が立たなくなってしまった。慣れというやつだろうか。
でも、これで、由香の顔がありえないくらいブッサイクだったら、いくら女とはいえ、一発くらい殴っていただろう。
美人て得よね。よくクラスの女子が溜め息まじりでいう愚痴にすごい共感が持てた。
そうだ。俺がここまでこの女(由香)にこれ程の仕打ちをされても、一言も母親に告げ口しないのは、由香がこれほどの美人だからなんだな。
きっと由香は自分が美人だから、何をしても許されると思っているに違いない。
許してるつもりは、けしてないが。自分もどこかで彼女を許していた部分もあったに違いない。
そう思うと何だか、気が抜けてきた。何て自分って浅はかなんだろう。
「ちょっと」
気が付くと、また由香は俺のことを睨んでいた。
「人の部屋でボケーッとするの辞めてくれる?……気分が悪くなる」
「あぁ、ゴメン」
思わず謝ってしまった。そのせいか一瞬だけ間が開いた。
何謝ってんの?気持ち悪いんですけど。そんな由香節が炸裂することを身構えていたのだけど。
「………何かもう疲れたわ」
ひっそりと彼女が間を埋めた。溜め息をつきながら。
それは、どういう意味だ。人の顔見て溜め息をつくな。と言いたい事はたくさんあったが、急に彼女の態度は変わった。
「告げ口してもいいわよ。お母さんに」
「告げ口?」
「そう、いやでしょ? 私みたいな性格悪女」
あぁ、確かにいやだ。そういえば、いいのだろうが
この期に及んで、俺は最後まで彼女の言葉にイヤとは言えなかった。
ホント、どうしようもない男だと誰かに言われそうだ。それなら、ここで弁解をさせてもらいたい。まず、俺は彼女をこの家の居候=家族と認めたわけでない。そう、まだ俺は彼女を信用していない。きっと この豹変した態度には何か作戦があるに違いない。