オナホールになった女 25
俺は珠ねーちゃんを無条件で信じていた。
それは、珠ねーちゃんがあの時の俺を無条件で信じてくれた…というより、何も信じられなくなった俺に寄り添い、支えてくれたからだ。
迂闊にも、俺は珠ねーちゃんに彼氏がいるなんて気付かなかったのだ。
それも、結婚式の情報雑誌やらパンフレットの存在によって気づくなんて最低だ。
俺はあの時のことを思い出して、後ろ手に隠したオナホの箱をまた強く握り締めた。
珠ねーちゃんに彼氏がいること、それも結婚まで考えている…を知って、二週間ぐらい経ってからだろうか、俺が「【MC】マッドカンパニー」の存在を知ったのは。
主に女を催眠でオナホールに調教して、女から型取ったマ〇コのオナホールを、大人のおもちゃとして販売しているらしい会社。
普段の俺なら、口元半笑いでスルーするところだが、その時の俺は普通じゃなかった。
その内容を詳しく読み込み始めていたのだ。
そして知った。
「オーダーメードオナホール」の事を。
アンケートに必要事項を入力する事で、スタッフが依頼人本人にも気づかれない様に、対象者を調教するらしい。
そしてユーザーフレンドリーなことに、調教の時、依頼人以外の男が対象者を犯すのではという懸念(嫉妬か)に対しても、主な調教は人格調教であって、肉体調教はおもちゃによって行われるとのこと。
お金に関してはあまり気にならなかった。
クソな親戚に狙われた両親の遺産があったし、精巧な出来のダッチワイフの金額とさほど変わらないなら、むしろ良心的……いや、どう考えても人件費とか諸費用を賄える金額じゃないだろうという別のツッコミはあったが。
ただ、それでも俺の希望にはそぐわなかった。
俺は、珠ねーちゃんをオナホにしたいわけじゃないからだ。
むしろ、珠ねーちゃんの身体が、ほかの男に抱かれていることすら大きな問題ではない。
俺は、珠ねーちゃんの心を、ほかの誰かに奪われるのが耐えられなかった。
俺は「【MC】マッドカンパニー」に連絡を取るべく、動き出していた。
『……イチ社会人ではなく、個人的な知り合いとして忠告させてもらえば、キミの望みはムシが良すぎるし、欲張りなことこの上ないねえ』
最近とみに少なくなった、公衆電話のボックスの中で、俺は呆れたような、それでいて面白がるような声を聞いた。
『ちなみに、イチ社会人として言わせてもらえば、童貞捨ててから出直してこいってとこかな。ウチの会社、馬鹿にしてんの?』
そして俺は……迷った挙句、珠ねーちゃんをオナホールにする依頼を出した。
この時、俺もまた裏切り者になったんだ。
「……総くん?」
顔を上げると、心配そうに珠ねーちゃんが俺を見ていた。
白い、ウエディングドレス。
「…綺麗だよ、珠ねーちゃん」
「やだ、総くん。それ、さっきも聞いたよ」
珠ねーちゃんが笑う。
いつもと変わらない微笑みを、綺麗なウエディングドレスに身を包んで。
でも、もう……珠ねーちゃんの心と身体は、オナホールとして調教済みなのだ。
人を殺すための訓練を続けながら、人を殺すことを禁じられた自分の存在価値に悩む男の小説を、昔読んだことがある。
あの主人公とは違って、珠ねーちゃんには、その自覚すらない。
使うか、使わないか。
珠ねーちゃんが、珠ねーちゃんでなくなるか、どうか。
俺があれほど望んだ、珠ねーちゃんの、心。
ああ、それでも、俺は…。
「……総…くん?」
首をかしげ、珠ねーちゃんが一歩、俺に近づく。
「珠ねーちゃん…」
ごめん、とは言わない。
「総くん、なんで泣いてるの…」
俺は、震える手でオナホの箱を珠ねーちゃんの前に晒し、それを、取り出した。
「そ、総くん、何…を」
「さよなら、珠ねーちゃん」
どんな形であれ、これであなたは、誰のものにもならない。
「あっ…えっ?あぁ…う…うぅン…」
ぽうっと、目元が赤らんだ珠ねーちゃんの表情は、俺の知らないそれだった。
震える指先で、軽くなぞる。
「はああぁぁン…ぇ、え?…な、何…これ…総くん?」
二度目はもう、震えなかった。
珠ねーちゃんによく見えるように、オナホールの入口をゆっくり、時々寄り道するようにくすぐってやる。
「あはぁぁ…はぁ…う、うそ…私…感じて…そ、総くんの前…なのに…ああぁっ…」
だらしなく口を開け、ウエディングドレスの前……股間を両手で抑える珠ねえちゃん。
オナホとして調教された珠ねーちゃん。
オナホとして男の欲望を受け止めるための調教を受けながら、喘ぎ、快感に悶えていた記憶。
その自覚のない珠ねーちゃんの意識を超えたところに、現実として淫らに開発された肉体はここにある。
取扱説明書によると、まずその影響が強く身体にあらわれるそうだ。
むしろ普段は、その淫らな肉体の感覚を消すための暗示が与えられているぐらいで。
そのリミットを取り去って、調教時の発情状態におかれるわけだ。