オナホールになった女 24
いちはやくその危険性に気づいて、オナホとしての使用を控えていれば……この女、俺と会話するだけで、姿を見るだけで性的に興奮するようになってきたらしい。
昨日は、どこで調べたのか俺のアパートまでやってきやがった。
オナホがストーカーって、冗談だろ?
「あ、あの…ちょっとお願いがあるんですけど」
「な、何かな?」
ぐっと、二の腕で胸のふくらみを強調しながら、上目遣いで俺ににじり寄ってくる風香。
ほかに人目がないこともあって、その興奮にとろけた表情をもはや隠そうともしない。
「こ、ここ…ちょっと虫に刺されたみたいで…見てくれませんか?」
「ん、んっと…自分で見られるよね?」
「い、いえ…胸の下っていうか…裏側なんです…」
そう言いながら、風香が自分の胸を持ち上げる。
「オナホの分際で盛ってんじゃねえ!」
微かに風香の身体が揺れ……目にも止まらぬ素早さで俺の腰にしがみついてきた。
「ひどい。ひどいです、ご主人様。たった1回使っただけで、私に飽きたんですかぁ!?」
俺のものにスリスリと頬ずりして、恨みがましく俺を見上げてくる風香…いや、もうコイツはオナホだ。
ズボンを下ろそうとするオナホの頭にチョップを食らわせる。
「うふふ〜無駄ですよう〜ご主人様。もうすぐ、三笠楓花は私の支配下に落ちますからねえ〜」
「オナホの分際で、人格を乗っ取るとか正気か?」
「昔から言うでしょう?大事にされたモノには、魂が宿るって」
「そんな大事にした覚えはない!」
熾烈な戦いを制して、オナホがオレのズボン戦線を突破し、トランクス戦線へと移動する。
「そんなことないですよう〜みんな、自分のモノになったと実感した途端、乱暴に、好き勝手し始めますから〜。でもご主人様は、私を優しく抱きしめて、私が壊れないように…」
トランクス戦線敗退。
もう、言葉はいらない。
「うあああぁ…」
んちゅっ、くちゅ、ぬっちゅ…。
オナホの口腔に欲望を吐き出しながら、俺は思った。
不良品を掴まされたのかもしれない…と。
【おわり】
【新婦 宮崎珠江(24)】
ドアを開けると、ウエディングドレスに身を包んだ珠ねーちゃんがいた。
「あ、総くん…」
「……綺麗だよ、珠(タマ)ねーちゃん」
「ありがとう」
幸せそうに微笑むタマねーちゃんに、俺は背中に隠したオナホールの箱をつぶさんばかりに握り締めた。
俺……肥後総一(ひごそういち)は、先日にようやく高校を卒業して、来月から大学生になる。
そして珠ねえ……宮崎珠江は、俺との約束を踏みにじって、何処の馬の骨ともしれない男のモノになろうとしているのだ。
裏切り者…。
心の中のつぶやきを実際に口にしたところで、珠ねーちゃんは困惑するだけだろう。
子供の頃の、六つ年下の弟のような存在と交わした約束そのものを、そもそも覚えているかどうか。
普通に考えれば、おかしいのは俺のほうだろう。
ただ、俺にとって、あの頃の俺にとって、約束とか、人を信じることが、どれだけの重みを持っていたか、珠ねーちゃんに知らないとは言わせない。
俺は両親がいない。
三年前に俺を育ててくれた母方の祖母が死んでから、親戚も、心の中では既にいないことになっている。
俺にとって、珠ねーちゃんは最後の家族であり、肉親だったのに…。