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世界の中心で平和を叫ぶ。第3部
官能リレー小説 - SF

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世界の中心で平和を叫ぶ。第3部 100

ちなみに永遠の使ったのは、『サウンドナイフ』と呼ばれる超音波で物体を切断するナイフ。
サウンドブレードと呼ばれる超音波の刀と同じ威力でありながら、小さく扱いやすいということで大人気の武器の1つだ。
その切れ味は戦闘型の牛沢の身体をやすやすと切り裂いたところから、容易に想像できるだろう。
そしてその傷は間違いなく致命傷レベルであった。

(このまま待っていてもジリ貧で倒れてしまうのは目に見えている。・・・となれば!)

危機的状況を冷静に分析した牛沢は、自分のとれる、最良にして最後の手段をとった。
牛沢はその手段をとる直前、一瞬だけ直純に視線を送る。
それは彼が仲間に送れる、精いっぱいのアイコンタクトだった。
直純はそのすべてを理解できなかったが、彼のアイコンタクトから何かする気であることだけは理解できた。

(・・・!?牛沢、おまえ・・・っ!?)
「う、おがあああぁぁぁ・・・ッ!!」

直純がアイコンタクトを送り返すより先に牛沢が吠える。
それと同時に牛沢の身体がモコモコと盛り上がり、人間以外の姿へと変貌していく。
牛沢は人間形態から本来の姿へと戻ろうとしているのだ。

「ッ!?う、牛・・・むぐっ!?」

啓太の命令を無視して本来の姿に戻ろうとする牛沢に、啓太は驚きの声を上げようとして・・・直純に口をふさがれた。
未熟な啓太がうっかり『怪人』牛沢の仲間であることを言わせないための、緊急措置だった。
主人である啓太の意思を無視しての正体暴露。
その意図を理解した直純は一瞬『ギリッ!』と歯ぎしりをした後、こう叫んだ。

「う、うわあああぁぁぁッ!?か、怪人だあぁぁぁッ!!」
「・・・ッ!?」

その声に呆然と事の成り行きを見守っていたギャラリーから、次々と悲鳴が上がった。
無理もない。この世界において、怪人とは凶悪犯罪の代名詞になるほど危険な存在なのだから。
だがそんな中、2人だけ悲鳴を上げないものたちがいた。
1人は永遠。牛沢の正体を知り、怪人として殺そうとしているかつての仲間。
もう1人は啓太。彼は直純の言葉の意味を理解できず、信じられないようなものを見るような表情で直純を見上げていた。
直純はそれに答えず、啓太を連れて逃げるようにその場を立ち去った。
直純は与えられた数少ない情報から牛沢の意図を理解したのだ。
牛沢は自らがおとりと悪役を買って出ることで、啓太たちを逃がそうとしたのだと。
たとえ自分が死んでも啓太たちの安全と立場を守るために―――。
直純が自分の意図を読み取って啓太とともに逃げ出したことを確認した牛沢は、安堵と感謝から思わず口の端を吊り上げた。

「―――ゴシュジンサマを逃がせて安心したかい?」

よほど安心していたのか。永遠のそんな言葉を言われるまで牛沢も自分が笑っていたことに気づかなかったくらいに。
永遠は啓太を逃がしたというのに、さほどあわてた様子はない。
どうせ他のネットワーク・フェアリーがいるから大丈夫とでも思っているんだろう。
だがそれでもいい。啓太の正体を知られるという、もっとも避けなければならない窮地は脱している。
永遠以外のフェアリーたちが敵に回ったとしても、しょせんは非戦闘型。
戦闘型である直純なら、うまく立ち回れるはず。
同じ任務に就いた仲間として過ごしてきた時間が、それを確信させてくれる。
残った仕事は2つ。1つは敵に回った永遠の始末。
そしてもう1つは―――。

「ゴオオオアアアァァァッ!!」

牛沢は獣のような雄たけびを上げる。
できるだけ周囲のギャラリーたちに聞こえるように。
怪人『マッスル・ミノタウロス』ここにありと知らしめんがために。
完全に怪人の姿となった牛沢の姿はまさにギリシャ神話に出てくるミノタウロスをほうふつとさせる姿であった。
天井を突き破らんばかりの巨体。風船のように膨れ上がった筋肉。
天井をゼリーのようにガリガリと削る、硬く鋭い一対の角。
ルビーのように鮮やかに、真っ赤に燃える深紅の瞳。
突然現れた怪人の出現にギャラリーは大騒ぎ。
中には腰が抜け、失禁しているものさえいる始末。
そうだ。もっとおびえろ。悲鳴を吐き出せ。そうすればもっと都合がいい。
牛沢はそう思いながら、1歩だけ踏み出した。
1歩。ただし床を踏み砕くほどに力強く。
たった1歩踏み出した牛沢の身体は、次の瞬間永遠の目の前に出現していた。
本来ならタックルでつぶしてしまうところだが、今回はこれでいい。なぜなら―――。

(ワシとともに死ねッ、笛上永遠ッ!)

牛沢は悪役としてニセの正義の味方と共倒れしなければならなかったからだ!

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