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世界の中心で平和を叫ぶ。第3部
官能リレー小説 - SF

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世界の中心で平和を叫ぶ。第3部 97


だが銃弾と刃が鉄の巨人に届くことはない。
ネットワーク・フェアリーと鉄の巨人との間に突然現れた、オーロラのような光の膜がそれを防いだのだ。
見れば鉄の巨人の背中には、いつの間にか小さな光の羽が展開されている。
大きく無骨な身体に似合わぬその羽は、まるで退化した翼のように見えた。

「姿を確認するなり、いきなりかよ〜?こっちはせっかくの初陣なんだから、もうちょっと気ぃ使ってくれよな〜。
 ま、ザコっぽいし、そんなこと理解する頭もねーのかもしれねーけどさ〜」
『・・・!?』

鉄の巨人と思わしき声にネットワーク・フェアリーたちに動揺が走る。
それは肉弾戦の得意そうなゴツい見た目と違い、かわいらしい小さな子供のような甲高い声だったからだ。
背中の羽と言い、声と言い。あまりにもミスマッチなことの連続にネットワーク・フェアリーたちは戸惑いを隠せなかった。
そしてその一瞬が彼らの命運を決めた。

「スキあり♪」
「ガッ・・・!?」×2

鉄の巨人は楽しそうにそうつぶやいた瞬間、その両手に捕えられたネットワーク・フェアリー2人の身体がビクンと跳ねた。
そしてその悲鳴は捕われていないはずのネットワークフェアリーたちにも伝播する。

「なっ・・・!?」

そこかしこで次々と上がっていく悲鳴。
いったい何が。その言葉を口にするより先に、無事だったネットワーク・フェアリーの男も悲鳴を上げていた。
そして理解する。先ほどのノイズ。自分たちに起こっている異変。そのすべてを。

(こ・・・れはっ・・・!ハッキ・・・ングっ・・・!?)

ネットワーク・フェアリーの男は信じられなかった。
おそらく他の自分たちも同じことを考えていただろう。
これはそれだけありえないことだったのだから。
断っておくが彼らはハッキングや洗脳をされたことに驚いているのではない。
ネットワーク・フェアリーがハッキングされかけていることに驚いているのだ。
敵から情報を引き出すために拷問やハッキング、洗脳を仕掛けること自体はそうめずらしいことではない。
そのため悪の組織は対抗策として、怪人に自爆装置を組み込むのを常識としている。
戦隊モノの番組でやられた怪人がよく爆発するのはそういう理由からなのだ。
しかしこれが通信系能力を持った怪人、群体型の怪人となると話が変わってくる。
通信系の怪人は言わば電子戦のプロ。そう簡単にハッキングなんてできない。
群体型の怪人は全部で1つの思考を行うため、1人をハッキングしようとしたところで残りが気づいて異物を取り除こうとしてくる。
その両方の特質をもつネットワーク・フェアリーをハッキングするということは、無謀以外の何物でもない。
うかつに手を出せば逆にハッキングされてしまうことだろう。
だがその無謀がたった今。目の前で。達成されようとしている。
自分という存在が書き換えられていく中、ネットワーク・フェアリーの男は信じられないものを見るかのように鉄の巨人を見つめた。
それを知ってか知らずか、鉄の巨人は実に楽しそうにつぶやいた。

「ん〜、なかなかのセキュリティ♪普通のヤツらじゃ手も足も出なかっただろうね。
 でもこのウリエル様は次世代を担う新型ヒーロー♪ボクの得意分野で勝てるヤツなんていやしないのさ♪」
(新型・・・ヒーロー・・・?)「お・・・?コイツら、最近売り出し中の『アパレント・アトム』の連中か。
 いいねいいね。ボクたち次世代ヒーローの名前を知らしめるためにも、ひと働きしてもらおうか♪」
(・・・!)

その言葉にまだ自我のあるネットワーク・フェアリーたちは顔色を変えた。
まさか。この敵は。自分たちに組織を、ひいては啓太を殺させようとしているのか?
冗談ではない。何とかしなくては。
ネットワーク・フェアリーは自爆装置を作動させようとしたり本部に連絡しようとしたりしたが、時すでに遅し。
それを実行に移すより先に・・・否、考えるより先に次々と思考を乗っ取られていく。

(け・・・けいた、さm――――)

ブツン。最後の思いも言い切ることもできず。
最後のネットワーク・フェアリーはテレビの電源のようにその意識を閉じたのだった。

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