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世界の中心で平和を叫ぶ。第3部
官能リレー小説 - SF

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世界の中心で平和を叫ぶ。第3部 92

黒河から最も遠いところで妨害を仕掛けていたネットワーク・フェアリーの胸に、小さなナイフが1本突き刺さっていたのだ。
それは『これ以上邪魔するな』という遠回しなメッセージに他ならない。
もっともいつ死んでもおかしくない生活を送っている怪人に、それは脅しにはならない。
ネットワーク・フェアリーが驚いているのは、自分たちが啓太の言いつけを破ってしまったことに対してだ。
啓太は常日頃から命を粗末にするな、命令もなしに勝手に死ぬなと口をすっぱくして言っている。
それを今、破ってしまったのだ。
ネットワーク・フェアリーが動揺するのも無理のないことだった。

(し、死んだ!死んでしまったぞ!?)
(けけけ啓太様の言いつけを破ってしまった!)
(い、いや破っていない!死んだのは私の一部だ!)
(そんな我々の理論が啓太様に通じるか!)
(ではどうする?)
(上に報告し、判断を仰ぐしかあるまい。おそらくこのことは隠蔽されるだろうがな)
(できるだろうか?)
(啓太様はまだ組織の怪人全てを把握しておられない。ごまかすことは十分に可能だろう)

ネットワーク・フェアリーはそう結論付けると、グループを死体の運搬と報告をするチームと連絡の任務を続行するチームの2つに分けてそれぞれ動き出す。
こうして永遠・・・ネットワーク・フェアリーのもくろみは最悪の形で失敗した。
黒河が大学に行くまで残り時間はあと少し―――。
――――

「―――!」
「・・・?どうした、永遠?顔色が悪いぞ?」

同時刻。学校で授業を受けていた笛上永遠は、何かに反応して身体を大きくすくませた。
それはカンの鈍い啓太ですら気づくほどの大きな変化。
まして事情を知っている牛沢が、その意味するところを理解できないはずはなかった。
だが彼はあえて気づかないフリをする。
今優先すべきは啓太の警護。その任務をおろそかにすることは絶対にできない。
敵が迫っていると知られるなど言語道断だ。
だからこそ、永遠もバレないように手を上げて授業をいったん中断させた。

「すみません、先生。ハラの調子が悪いんで便所、行ってきていいっスか?」

それはこの場を逃れるには1番自然な言い逃れ。
まして今の永遠はかなり顔色が悪い。
授業を中断された教授は多少不愉快そうにしつつも、教室から出ることを許可した。
だが永遠が怪人であることを知っている啓太は、信じられないものを見るかのように永遠にたずねた。

「腹が痛いって・・・ホントに大丈夫なのか?」
「ああ大丈夫、大丈夫。あんまりひどいようなら病院、行ってくるからさ」

その言葉に啓太はまだ心配そうにしつつも、とりあえず納得した。
怪人が腹痛になるなど考えにくいが、病院(=基地)に行くと言ったのだ。
問題があればすぐに解決に向けて動いてくれるだろう。そう思ったのだ。
そう考えるあたり、啓太は組織の長としてまだ駆け出しであることがうかがえた。
啓太はまだ知らない。今、自分のために1人の怪人が死んだことを。
そして戦いのときがすぐそこまで迫っていることを。

「くッ・・・う?」

啓太の元から離れた永遠は、移動途中に少しだけ頭を押さえわずかにうめく。
だが今は命より大事な主人の危機。そんなことにかまっている余裕はなかった。
簡単な連絡を済ませて集合場所に向かうと、そこにはすでに護衛チームが集結していた。

「・・・被害状況と現状報告を」

失敗したのか、などと無粋な質問をするものはいなかった。
作戦の失敗などとうに連絡済みだし、仮になくても永遠の顔色を見れば一目瞭然であった。

「オレ(ネットワーク・フェアリー)の1人が殺られた。
 事実隠蔽と報告のため、今は護衛班と死体運搬班の2チームに分かれて行動している」
『・・・っ!?』

殺られた、という言葉に仲間たちが明らかに顔色を変えた。
主人の命令に背いたのだ、彼らが驚くのも無理もないことだろう。
だが今はその責任を追及している場合ではない。
永遠はそのまま報告を続けた。

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