世界の中心で平和を叫ぶ。第3部 39
「私にはそうは見えないな。
組織の重要人物を危険にさらして、逆に立場が危うくなったように見えるが?」
「・・・くくっ。白々しいうそはやめろ。私から聞きたいんだろう?
見たこともない正義の味方と、人目も無視して追撃してきた正義の味方。
私の正体と連中との関係を、な」
軽く笑いながら答えるルシフェルに、夢はわずかに反応した。
目の前の女を、予想以上の人物と判断したのだ。
普通、これだけの怪人に囲まれたら、圧倒的な不利な状況に不安や恐怖を少なからず感じるものだ。
しかしこのルシフェルは一歩間違えれば絶望的な状況にいるにも関わらず、その余裕を崩さない。
それどころか、こちらの考えをずばり言い当てた。
実力もさることながら、それなりの度胸と判断力がないとできない反応だ。
そして度胸と判断力は、一朝一夕で身につくようなものではない。
以上の内容から、夢はルシフェルを戦闘型の怪人。
それもかなりの修羅場をくぐっているか、かなりの重役についていたと推理した。
「話が早いな。では早速教えてもらえないか?
・・・おまえの正体、敵との関連性、知っていることを全部」
「等価交換と言う奴か、いいだろう。その前に主だった奴らを集めろ。一々二度手間になるのも面倒だ」
あっさりとルシフェルが頷いた。
ルシフェルにしてもただで保護してもらおうとは思っていなかった。
いずれにせよ、偶然ではあるがそこそこ大きな組織に出会えたのは僥倖だった。
「だったら、俺たちの……」
「待ってください、啓太様。私達はまだ、その者を信用しておりません。むしろ、まだ怪しいと思っています」
基地にと啓太が続けようとして夢に制される。
その鋭い視線はルシフェルに向けられたまま。
「当然だな。こちらとて簡単に信用してもらおうとは思っておらんよ。だが、集団でこの様じゃ余計な騒ぎを招くのも事実」
「ならば、この近くにデリシャスというレストランがある。そこでどうだ?」
「いいだろう」
話は纏まり、治癒能力を持つ怪人がルシフェルに近づく。
仕事ではあるもののその目は嫌疑を持っている。
当然だ。自分の主を危険に巻き込んだのだから。
「いらん。必要ない」
だが、ルシフェルはそれをあえて断った。
「けど、その右腕じゃ……」
啓太が心配するのも無理は無い。
ノワールとエトワールによるスターライトバインドを右腕一本で受け止めた結果、肉が裂かれ、血塗れとなった。
立ったルシフェルはその血塗れの右腕を大雑把に水で洗い流す。
流れ落ちた水は赤く染まる。
明らかに痛いだろうにルシフェルは表情すら変えない。