世界の中心で平和を叫ぶ。第3部 37
「わ、わざわざ我々の見舞いに来てくださったのですか?
これはどうも申し訳ありません」
雷電が態度を硬くする中、モーリーは深々と感謝の意を表する。
しかしミカエルは申し訳なさそうに首を振ると、あっさりとここに来た目的を告白した。
「申し訳ありません、先輩方。
私がここに来たのは姉を捕らえようとしているあなた方先輩ヒーローへの警告と、命令無視したものへの処罰になんです」
「え?それはどういう・・・」
ドシュッ!
モーリーが言い終わるより先に、何かを貫く音が廊下に響く。
気づけば視界にミカエルの姿はなく、雷電のすぐ目の前に立っていた。
雷電の胸にはいつ刺したのか、ミカエルの右腕が深々と突き立てられている。
「なッ・・・!?」
「ぐッ・・・ガハッ!?」
雷電もあまりの速さに気づかなかったらしい。
驚きの声を上げようとして、大量の血液を吐き出した。
あまりの出来事に動けないモーリーをよそに、ミカエルは微笑みすら浮かべて雷電に語りかける。
「・・・何、ヒトの姉を殺そうとしてるんです?
指令はルシフェル姉さんを捕まえることでしょう?」
「ぐぶっ!?がっ、があぁッ!!?」
「気づかないとでも思ってましたか?
まぁその気持ちはわからなくもないですけどね・・・。
あなたはそれを実行に移すべきじゃなかったですよ。だって・・・」
ミカエルの顔から笑顔が消える。
そこにあるのは、人間と思えないほど冷たい無表情。
「あなたは、私の聖域を、侵した」
カアァッ・・・!
「・・・ッ!!」
次の瞬間、雷電の身体から光が十字に吹き上がる。
光は雷電の中心に大きく膨らみ、全てを飲み込んだ。
光が消えたとき、そこに雷電はいなかった。
ただ彼の存在を示すように、床は不自然にえぐれ、突き出されたミカエルの腕は真っ赤に染まっている。
「ヒーローネーム、雷電筒衛門。
ヒーロー規約にのっとり、ヒーローにふさわしくないその存在を抹消する」
姿を消した雷電がどうなったのか。
そんなのは考えるまでもなかった。
彼は殺されたのだ。目の前の若いヒーローに。
他のヒーローの暴走を抑えるため、見せしめとして。
「・・・モーリー先輩も気をつけてくださいね?
でないと雷電先輩みたいに『代替わり』しちゃうかもしれませんから」
モーリーが絶句する中、ミカエルはその場を後にする。
再び行方知れずとなった、大切な姉を探し出すために。
(姉さんが何の理由もなく脱走なんてするわけない・・・!
絶対何かあったんだ・・・!)
狂気すら感じさせる、強い信頼の名の元に。