世界の中心で平和を叫ぶ。第3部 34
敵にいいように利用されかけ、挙句敵か味方かもわからぬ女に恥をかかされる。
しかもそれを啓太の前で。
踏んだり蹴ったり、弱り目に祟り目状態のバルキリーが半ばキレ気味に怒鳴る。
実際、啓太の役に立ちたくて厳しい訓練を送っていた彼女だ。
この状況は悪夢としか言いようがない。
もっともその訓練があってこそ、仕掛けられたチェイサー・ウイルスを独力で何とかしてしまえるのだが。
とにかく復活を果たしたバルキリーは、八つ当たり気味に髪の毛を伸ばして追撃を加える。
「ぐうぅ・・・っ!?」
「ノワールっ!」
しかし相手は腐っても正義の味方。
何とか攻撃をかわすと、そのまま民家の屋根に避難する。
ノワールの火傷は思った以上にひどいようだ。
その顔からは薄い煙が昇り、押さえた手の隙間からはひどく焼け爛れた顔がのぞいていた。
あの様子では戦うことはできないだろう。
本人たちもそれを理解しているらしく、逃げるチャンスを求め、こちらの様子をうかがっている。
無駄な血を流さずに済む。
そう思った啓太が、思わず安堵のため息をついたその時だった。
ルシフェルが逃がさないとばかりに飛び上がった。
「え・・・?」
啓太が驚く中、ルシフェルの灼熱の手がノワールとエトワールに襲い掛かる。
「くっ!?な、なめるなぁッ!!」
唯一迎撃可能なエトワールがステッキをかざし、ビームを嵐のように打ちまくる。
その甲斐あって、2人はルシフェルがひるんだスキにその場を飛び退き、見事彼女の魔の手から逃れる。
しかし彼女の攻撃が終わったと思うにはまだ早かった。
「クロス・ファイヤー」
かわされた手が屋根に触れた瞬間、そこから炎が十字の形に吹き上がり、空中に回避したノワールとエトワールを包み込んだ!
「きゃあああ!!!」
「あああ!!!」
火焔地獄の中、ノワールとエトワールは文字通り身を焼かれながら激痛にあえいでいた。
まさにその時。
バン!ガァン!
それは瞬時の事だった。
轟音と、それに重なる轟音。
次の瞬間、ルシフェルは巨人に殴られたように吹き飛ばされていた。
「うわあ!」
どこからともなく受けた猛烈な一撃は、ルシフェルの放つ火焔を止め、後には全身を大火傷して大地に墜ちたノワールとエトワールの凄惨な姿があった。
そして・・・・
バン!ガァン!
それは瞬時の事だった。
轟音と、それに重なる轟音。
次の瞬間、バルキリーは痛烈な衝撃と共に叩き飛ばされ、伸ばした髪の毛の大半が切断された。
「お、おい!バルキリー、ルシフェル!」
状況がよく飲み込めないまま、啓太は叫んだ。
そこに、重く低い声が響く。
「裏切り者ルシフェル、その命、頂戴する!」
啓太が声のしたほうを見ると、身長250cmはあろうかという長身に、超巨漢力士というべきごついガタイをし、大銀杏を結った漢がいた。
その漢は、両手で巨大な砲を持ち、腰だめにして構えていた。
「何だこいつ・・・・・持っている銃はまるで戦車砲だ。」