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世界の中心で平和を叫ぶ。第3部
官能リレー小説 - SF

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世界の中心で平和を叫ぶ。第3部 115



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ここで少し時間はさかのぼる。
啓太が永遠に裏切りに遭い、ゴルディアースと会っていたころ。
アパレント・アトム本部は上へ下への大騒ぎとなっていた。
何しろ啓太を護衛しているはずのエレメンタル・ガーディアンたちメイド部隊から、定時連絡が一向に来ないからだ。
彼女らにとって、啓太は命よりも大事な存在。
その意志は神の啓示に等しく、どんな理不尽な命令だろうと従わなければならない。
万が一に備えて、最近メキメキと力を伸ばしているメイド部隊を護衛につけたというのに・・・。
情報部では啓太の安否を確認するべく、所属怪人たちが情報部部長の小森雅と啓太の左腕であるクロックオクロークが命令や檄を飛ばしていた。

「こちら本部!こちら本部!応答せよ!いったい何があった!?
 ただちに状況を報告せよ!繰り返す!ただちに状況を報告せよ!」
「おい!護衛についている連中からはまだ連絡がないのか!?」
「は、はい!何度も呼びかけているのですが・・・!」
「あきらめるな!連絡がつくまで呼びかけ続けろ!」
「りょ、了解!」
命令を受けた下っ端怪人は、持てる限りの能力をフル稼働させて啓太や護衛に声をかけ続ける。
一方、命令を下した雅のほうも焦りと戸惑いを隠せないでいた。
普段は素直クールで一部の怪人たちから『お姉様』と慕われている彼女。
しかし今はそんな仮面も剥げ落ち、愛する主人を心配する1人の女と成り下がっていた。
もっとも彼女はまだマシなほうだ。
通信室の外では啓太の状況を知ろうと集まった怪人たちが詰めかけていたり、啓太を守りに勝手に基地を飛び出そうとする怪人がいたりと大変な騒ぎになっていた。
何しろマッスル・ミノタウロス牛沢と永遠を含むネットワーク・フェアリーのライフ消失(死亡)を確認したのだ。
自分の所有者が死ぬかもしれないときに冷静でなどいられるはずもなかった。

「クロック様!警備部の一部の怪人たちが啓太様を助けに行くと独断行動に!」
「チイッ!あのバカどもめ!ベンケイ(薙)に連絡して止めろと伝えろ!」
「ダメです!薙様は今、模擬戦闘場で訓練中で・・・!」
「・・・っ、なら手の空いている警備部の連中に止めさせろ!侵入者防止用のトラップを使用してもかまわん!」

部下に指示を飛ばすクロック。
彼女は今、普段の自分では考えられないようなミスに自分を殴りつけたい気分だった。
普段の自分なら絶対にこんなミスなどしない。
しかし啓太の命がかかっていると思うとどうしても焦りが出る。迷いが出る。
それらが明晰なはずの頭脳に陰りを落としている。
クロックは深呼吸を1つして自分を落ち着けると、それだけで普段の自分を取り戻して指揮に当たった。

――――

同時刻。アパレント・アトム本部の第8模擬戦闘場。
そこでは1人の客人が11人の怪人たちを相手に稽古をつけていた。
だが。果たしてそれは本当に『稽古』と言ってよいものなのだろうか?
壁や床、天井にはヒビ割れ、陥没などによってボロボロ。
半ば廃墟と化した模擬戦闘場には2種類の人間・・・否、怪人たちが存在していた。
床に横たわり、苦痛に悶えるものと血走ったような目で1人の少女を睨みつけているものである。

「おい。何をしている。時間は有限なのだぞ?
 にらめっこなどで時間をつぶすヒマがあるなら、私にカスリ傷の1つでもつけてみろ」

敵意や憎悪を通り越して殺意や狂気すら感じさせる視線を受け、平然と挑発をしている少女の名前はルシフェル。
次世代を担うアドヴァンスド・ヒーローでありながらヒーロー協会を脱け、ひょんなことからアパレント・アトムに(一方的な)保護を求めてきた少女。
彼女はここで生活保護を受ける代わりに見込みのある11人の怪人たちの強化をするべく、ここで寝食を惜しんでの稽古をつけてやっている。
だがその内容は稽古なんて生やさしいものではない。
実戦だ。それも生きるか死ぬかのギリギリの瀬戸際を探るような、激しいヤツ。
今の彼女は能力の大半を封じられ、技らしい技も使えない状態だというのに、その強さはまさに鬼神・闘神。
手加減してくれるかも、あるいは殺さないようにしなきゃ、なんて甘い考えを持っていたら彼女らはすぐさま物言わぬ屍と化していただろう。
今、倒れているものも苦痛にうめいているが、そんなのはこの場にいるものにとって小休止みたいなもの。
ルシフェルが攻撃を仕掛ければ、すぐさま起き上がって戦闘を再開するはずだ。
今、この場にいるものすべてがたった1人の少女を殺し、自由を勝ち取るための獣、あるいは殺人人形となっていた。

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